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タイガールート









 ほんの気まぐれ。普段はまずしないであろう貴重な生態……もとい行動。具体的には、食事を終えた後に食器を洗うなどという献身的なそれ。ぐうたらでだらしない『姉』とは思えない様子。

 かしゃかしゃと音を立て、十分すぎる量の食器用洗剤を染み込ませたスポンジで、きゅ、きゅ、とテンポ良く汚れを落としてからお湯ですすぐ。

 彼女は今とてもご機嫌だから、このように、普段ではとても起こさないような気まぐれを起こしたのだった。

 ──それは、ほんの十数分前のこと。

『士郎』

『うん?』

 士郎と大河は座卓を挟んで腰掛けて食事中という、いつもの光景。大河は特に理由は無いけれど、何の前触れも無くふらりとやってくる。毎日のように。

『お嫁にもらってくれる?』

『いいよ、オッケー』

 ──トゥルーエンドフラグ成立。現時刻をもってシナリオ終了。物語、完。

 およそ三秒間の唐突な告白。この味噌汁おいしいねとかそんなのと同レベルのさりげなさ加減。二人はそれから末永く、仲良く暮らしましたとさ。めでたしめでたし。……といったようにシナリオが終了してもおかしくない流れ。

 士郎にとって大河は年上のお姉さん的存在。自分が子供だった頃から知っている気心知れた仲。

 逆に、大河にとって士郎は年下の、実の弟みたいなもの。二人が出会ってから、かれこれ何年になるだろうか?

 ヘビーな運命や宿命に左右されることもなく、二人は平和に食事を続ける。

 鰺の開きは骨だけが残るほど食べ尽くした。脂がのっているわりにしつこくなくて実にうまかった。磯の香りを感じる塩気でご飯が進む。

『指輪』

『ん?』

『どういうのがいいか、教えて』

『無理しなくていいわよ。もちろん、してもいいけど』

 ほうれん草のおひたしも柔らかくてうまい。よく冷えていて、醤油と鰹節がかかっていて香ばしさが心地よい。歯で程良く噛み切れる柔らかさが嬉しい。

 レタスと唐揚げのサラダ。オーロラソースをかけて結構ジャンキーな味わいのようでいて、ミックスリーフと合わせて食べるとヘルシーさも同時に味わえるという、お得感抜群なおかず。

『サプライズとか、もしも好みに合わなかったりしたら嫌だからさ』

『そうね。……でも』

 大河は味噌汁をすすり、そして微笑んだ。本日の味噌汁は油揚げと豆腐に長ネギという組み合わせ。ネギのシャキシャキした感じがたまらない。毎日でも飲みたいと思うし実際飲んでいる。だからこれは、今更な提案ではあった。実質夫婦。公的な証明が無いだけで既にそんな関係。

『士郎がくれるのなら、それだけで嬉しいかな?』

 普段の調子とちょっと違い優しい反応。嬉しい事があったからか、ご飯が更においしいと大河は思った。

 そうしてあっという間に大河が持っているお茶碗は空になった。気遣いの塊である士郎がそれを見逃すはずも無い。

『おかわりいるか?』

『いる! ドカ盛りで』

『オッケー』

 士郎はお茶碗を受け取り、立ち上がるのだった。

 ──日常のありふれた食事風景。人と人の基本的な営み。

 食事の後でふと大河が士郎に『今日は特別にわたしが食器を洗ってあげよう!』とかなんとか言い出して、今に至るのだった。一体どういう風の吹き回しだろうかと、士郎は首を傾げたものだ。

「ん。士郎? 何?」

 しばらくの間後ろから、洗い物をする大河の背中を見ていた士郎だったが、ためらいがちにゆっくりと立ち上がり、背中にぴたりとくっついて腕を伸ばしてハグしていた。

「こういうことをしたって……もう、いいんだろ?」

「そうね。悪くない。あんたにはその権利がある」

 大河は頷き、そして体の向きを変えて士郎に正面から相対した。

「こんなことだって……したっていいものね」

「あ……」

 さりげない、ほんの少し触れあうだけの口付け。二人にとって初めての、心構えもいらない触れ合い。意を決してすることもない、シャイな日本とは違う、どこかフレンドリーな国民性の人々による挨拶みたいなもの。

「なんてね。洗い物、するわね。……んっ!」

 大河は再び士郎に背を向けた。すると即座に、二つの大きな膨らみが士郎の手で掴まれていた。

「こういうことだって、したっていいんだろ?」

「ん……。うん。いい、ね。悪く、ない」

 決して力は強くなく、簡単に引きはがせそう。けれど大河はそうしなかった。何となくそのままでいた。

「ずっと……触ってみたかったんだ」

 士郎からの告白。なぜだろうか。大河はそれを注意したりするよりも、受け入れてあげたくなった。自身の母性を自覚する状況だった。

「そかそか。うんうん。わたしもあんたに女として見てもらえていたんだね?」

「そりゃ、見ているさ」

 子供の頃に出会ったお姉さん。自分の子供時代をよく知っている年上の人。

 健やかに成長した少女の体……。程良く丸みを帯びた胸の膨らみに、何度となく触れてみたいと思った。きっと、とろけるように柔らかいのだろうなと想像した。禁断……つまり決して触れてはいけないところ。まるで高嶺の花。士郎は大河にそんなイメージを抱いていた。

 そして今、その時が来た。二人の関係はたまたま担任と教え子というものになったけれど、自宅においては出会った頃とまるで変わらない。

 衣服の上からでもわかる柔らかさ。ゴム鞠のような丸い塊に指がめり込む。自分とはまるで違う異性の体。士郎が手で触れた時、大河は微かにピクリと震えた。こうすればそうなるものなのだろうと、士郎は理解した。

(これが、藤ねえの体……。女の人の……体)

 程良い温もりと規則的な鼓動。士郎はずっとこのままでいたい気持ちになっていく。けれど、大河は言った。

「触るだけで、いいの?」

「え?」

「若い衝動に任せて、ぐにんぐにんって揉みまわしたりしたくないの?」

「そんな乱暴なことしたら痛いんだろ?」

「ん……。でも、ピタッと静止されるのも何というか、手ブラみたいで落ち着かない」

「じゃあ、少しずつ動かすぞ?」

「うん。どんとこーい」

「痛かったら言えよな」

「何だか歯医者みたいね。……ん。あ。くぅ。お、おぉ。早速きたね」

 ふさ、ふさ。衣服の繊維の中に柔らかな肉体の感触。ブラジャーがしっかりと覆っているのがわかる。

「お、あ、ぅ」

「藤ねえ。痛くは……ないみたいだな」

「う、う、ん。このくらいなら大丈夫。そのまま続けて。あ、ぉ、ほ……」

「女の人って、胸をこんな風にされると、どうなんだ? 何も感じない?」

「いゃ……おぉ。んなこたぁない。ん、ん。あ、あ。いい、よ。ちょっとね。くすぐったい、かも?」

「嫌なのか?」

「ああ、違う違う。嫌じゃない嫌じゃない。そのままそのまま。いーから続けてー」

 士郎はふと、中心に何か堅いしこりのようなものがあることに気づいた。こりこりとした弾力のあるそれが、突然こんもりと膨らんだ丘のどこからか出てきたのだった。

(なんだこれ?)

 士郎は特段深く考えずに人差し指と親指で左右二カ所にあるしこりを摘まみ、ぐにゅりと折り曲げた。それは大河にとっては、軽率な行動に思えた。

「くぁっ! あひぃっ!」

「ふ、藤ねえ!?」

 びくんっと大きく弾けた大河。快楽が一気に高まった。大河ははぁはぁと荒い息をついて、シンクの縁に手を着いて耐えていた。

 似たような感触の物体ならば、世の中にいくらでも……ごまんとある。けれどただの物と違って、触れた分だけ切なげな反応を示してくれる。そして士郎はその反応を見るのが楽しくなって、知らぬ間にもっともっとと行為がエスカレートしていった。異性の交わりとはそういうものだ。

「はぁ、はぁぁ。……し、士郎ぉ」

「だ、大丈夫か?」

「大丈夫。大丈夫だけどね〜……。そこはちょっとだけ……優しくして?」

「わ、悪い」

 士郎は素直に言われた通りにすることにした。自分が掴んだのが何だったのか、理解したのだ。

「う……っく。ん……」

 それからゆったりとしたペースで揉み回す。胸が形を歪める度に大河は小さな嬌声を出してしまい、時々ぶるると震える。

 柔らかな感触。敏感な神経。小刻みに聞こえる吐息。士郎は、自分の手でこの人をそうさせているのだと実感する。

 士郎は大河に優しく触って欲しいと言われたところを、恐る恐る手で覆った。

「んっ!」

 その瞬間。大河はぴくんっと反応した。

「……っ!」

 普段のがさつさ加減が嘘のよう。目を閉じて切なげな声を堪えようとして、それでも漏らしてしまった。上気した頬はほんのりと赤らんでいる、まるで恥じらいを感じた乙女の姿。普段の傍若無人さ加減が嘘のように、か弱い雰囲気を醸し出している。士郎は完全に魅了されていた。

「ふ、藤ねえっ!」

「え? あ、あぁぁっ! ちょっ! んぅっ!」

 もう我慢できない。そんな男としてのスイッチが入ってしまった。

 グリーンのジャンパースカートの中……大河がよく着ている縞柄の長袖シャツ。士郎はその下に手を潜り込ませて、ブラジャーの覆いすら無視して胸の膨らみに直に触れた。衝動的に。

「あ! だ、めぇぇ! そこ……あっ! っく!」

 左右の膨らみを直に揉み回され、尖った乳首を摘ままれて、大河ははぁはぁと呼吸を粗くしていた。

 そして、重なるようにして当たっているお尻辺りに、何やら固くなっているものの感触を覚えた。ああ、士郎も男だったんだ。出会った頃は小さな子供だったのに、今ではもう大人の体をした一人の男になったんだと、成長を実感した。

 女の体に触れて局部を膨らませるような、健全な男子だったんだ。そして初めて選んでくれた相手は、自分。実に誇らしい。

「んひっ! あ、あ、あ。だ、めぇ。んくぅっ! はぅっ!」

 強めにふさ、ふさと、大きく揉み回す。指がめり込む柔らかさ。

「はっ……あぁぁっ。は、ぁ、ぁぁぁ」

 震えが止まらない。吐息が熱い。

「藤ねえのおっぱい大きい。柔らかいんだな。触れば触るほど反応して、可愛いぞ」

「そ、そーですかい。んんっ! だ、だめだって。そこは優しくって、言った……はぁんっ! あっ! はっ!」

 大河は失念していた。

 士郎は思春期真っ直中。つまりは、女とヤりたい盛りの男子学生なのだということを。身をよじらせて喘ぐ女の反応を見て、ごくりと唾を飲み込む音が聞こえた。一人の男が色というものを知っていく。

「くぅっ! あ、あぅっ! だ、めぇぇ! あ、あ、あっ! ちく、び……がぁぁ! そんなにぃぃっ!」

 ゴムのような感触。くにゅくにゅと、人差し指と中指とで小刻みに散々こねくり回されて、一気に気持ちが高ぶっていった。

「だ、め……。も……い、っくぅぅぅ!」

「藤ねえ?」

 大河としても、初めて感じる男からの愛撫。縞柄のシャツは既に完全にたくし上げられて、豊かな二つの乳房が揉み潰されているのが露わになった。

「お、お姉ちゃん……しろーの手で……い、い……いっくぅぅぅぅぅっ! はぅっ! あぁんっ! あっあっあっ! あぁぁぁっ!」

 びくんびくんと一際大きく震えて、大河は乳責めでイってしまった。

 士郎はそのまま体の位置を変え、大河の正面に向かい合った。

「も、もぉイったから! だからちょっと放して……くぅっ! んっ!」

「おっぱい。藤ねえのおっぱい。可愛いな。本当に……」

 士郎はうっとりとした表情で、大きな丸い膨らみにかぶりついていた。

 先程まで指でこね回していた乳首に吸い付いて、舌先で円を描くように撫で回したり、唇をすぼめて圧迫してみたり。

「うぇぇぇっ!? あぁぁっ! ち、ちょっとぉ! 赤ちゃんじゃないんだから! 乳首ちゅーちゅー吸っちゃだめぇぇぇっ! はぅっ! あっあ! またイっちゃう! おっぱいで連続イきしちゃうっ! あ、あぁぁっ!」

 大河はいつしか士郎を腕で抱え込むようにして、胸への愛撫を受け止めていた。

「き、もちぃぃぃ! また……また。わたし……あ、あ、あ、あ、あ、あぁぁぁっ! い……くぅぅっ! あっはっぁぁぁっ!」

 二度目の絶頂を迎えさせられ、大河は足腰から力が抜けて、へなへなと座り込んでしまったのだった。

「藤ねえ」

「ん、ん」

「好きだ」

「んん。うん。ん……。わたし、も……。すき。んーんん」

 きちんと伝えたわけではなかったから、思い出したかのように言った。

 ソフトなファーストキスとはまるで違う。貪るような深いキスで締めくくった。





…………





「お……おぐ……おぅ」

 想像していたのと違った。遙かに大きかった。目一杯口を開けているのに圧迫感がすごい。

 二度も胸の愛撫でイかされてしまったので、今度はわたしの番! とかなんとか、勢いで言ってしまった。口でしてあげるね! と。

 ところが、士郎の若き血潮がたぎるそれはとてもでかかった。まさに想定外。ジーンズのチャックを下げてパンツの中から取り出したところ、ぶるんと勢いよく飛び出してきたものだ。

『藤ねえ……。大丈夫か?』

『だ、大丈夫よ!』

 だいぶ強がっていた。

 経験なんてあるわけもない。ただ、歯を当てたら痛いだろうから、それだけは注意しようと思いながら、しゃぶりついた。仁王立ちしている士郎の股間に顔を埋めて、右手で軽く掴みながら。

(でかっ! なにこの大きさ!)

 冗談抜きで顎が外れそう。けれど、大河は意地でもやり遂げたかった。散々胸をいじくられ、イかされっぱなしでいいわけがない。お姉ちゃんの威厳を今こそ見せつけるのだ!

「おご、んご」

 気合い。そして根性。黙って姉ちゃんに任せなさい! いきなりディープスロート。気をつけないとむせかえりそう。

「あ……。すごい。口でしてもらうのって、こんな感じなんだな」

(気持ちよくなって……くれてはいるのかな?)

 じゅぶり、じゅぶりと少しずつ顔を前後に動かしてみる。

「藤ねえの、口で……。う……」

 士郎は大河の胸を揉み回し続けて興奮していたのか、じんわりと亀頭に先走り液が染み出ていた。

(なかなか、強烈)

 大河は初めて味わう男のそれを、そう評した。苦みとえぐみ。今までに体験したことのないような生々しい野性的な味。

 出会った頃は体と同じように小さかったそれが、今ではバキバキのものになっていた。

(しゃぶり甲斐が、あるじゃないの!)

 じゅぷり、じゅぷり。唾液を擦り付けて舌を這わせ、口内奥深くまで咥え込む。

「藤ねえ。苦しくないのか?」

(苦しいわい! んなもん決まってんだろが!)

 悪態をつきたくなるけれど、今は我慢。

「う……くっ!」

(お? いいのかな?)

「藤ねえ……」

「んぇ?」

「ごめん。動いちゃ、だめか?」

「んく。……いぃ、けど。ゆっくりにして」

「うん。わかった」

 士郎はそう言ってから、大河の頭を両手で掴み、ゆっくりと揺さぶり始めた。

「ぐ……ぶ」

 士郎のものを掴んでいた指を放させて、ノーハンド。

「お、あ、あ!」

 じゅぷじゅぷじゅぷ。小刻みな動き。

 好きな人に自分の、男にとって象徴であるものを口で咥えさせている。さ

 少しざらついた舌でたっぷりと舐め回せ、しっとりとした柔らかな唇で包ませる。

「藤ねえの口。気持ちいいな。とろけそうだ」

 大河は少し呼吸が苦しそうだけれど、どこか満足げな表情。

「ん、ん……。も少し動いても、いいよ。ちょっと、慣れてきた。あぅっ!」

 士郎は再び大河の口内に突っ込んで、ゆったりとだけど大きく動き始めた。

(もう少しって、どこまで大丈夫なんだ?)

「ん……。おぐ……。お、ぉ、ぉぉ」

 士郎の心配を余所に、大河は自ら動き始めた。されるがままでいいわけが無い。そう思っているかのよう。

 その速度はこれまでで最も早かった。

「う、あ! ふ、藤ねえ!」

「おぐっ! ぉふ! んっ! ぐっ!」

 強い吸い付き。唇をすぼめて士郎のものを圧迫させ、舌を歯に被せてそのまま滑らせる。

「あ! す、すごい。い、いきそ……うっ!」

 肉棒の裏筋に添うように、快感が走る。

(士郎! 気持ちいいのね! わたしの口でイきなさい!)

 じゅぽん、じゅぽん、じゅず、じゅず……。男のものをしゃぶりつくし、精液を搾り取ろうとする決意。それはすぐに実り、士郎は達した。

「あ! だ、だめだ! 藤ねえっ! くっ! あっ! で、る!」

 爆発。そんな表現がぴったりなくらいに、射精の量と勢いは凄まじかった。

「かはっ! ぶぇっ! な、によこの量! ぶっ! あっ!」

 口内だけで収まらず、顔中にぶちまけられてしまった。

 ものすごく濃厚で、凄まじい量。

「うぅ。でもまあ。気持ち良かったでしょ? これだけ出すんだから」

「最高にな」

「ならよし!」

 大河は右目をかたく閉じながら、ティッシュを求めて手を伸ばしていった。





…………





 平和。穏やかで静か。重厚な宿命に縛られることも、命の瀬戸際に立たされることもない。急ぐことも慌てることも悲嘆にくれることもない。

「藤ねえ。もう、入れていいか?」

「ん」

 大河はとろりとした惚けたような眼差しを向けながら頷いた。それもそのはず。

 まず最初に。いきなり入れたら痛いだろうからと、士郎は床に横たわる大河のスカートを汚れないように捲り上げ、縞柄パンツをするするっと脱がし、足をぐいと開いて割れ目に口を付けたのだった。

 あまりにも自然な調子だったので、大河はまるで反応できなかった。目を見開いて驚き、凍りついたように硬直している大河をよそに、丁寧に念入りに舌と指で柔らかくほぐした。ちゅくり、つぷりと、しっとり濡れていく。年下の男子にされるがまま。

 大河は時折ぴくん、ぴくんと震えた。やめてと言う気すら起こらずに、そのまま快楽に身を任せた。

『あ、あ。そこ、いい。気持ちいい……』

 前戯だけど、大河はいつしか天にも昇るような快感を覚えてしまった。

 ──今はそんな流れ。

 心地良い脱力。丁度いい力加減で、初めてだというのにまるで痛みを感じない。

「ふ。く……っ。ん」

 動きは早くなく、むずむずとしているようにゆっくり。けれどそれがいい。

「あっ……ふぅ! はぅ……。いい。そのまま、続けて」

 つぷ、つぷと、肌を重ねる音が聞こえる。静かな室内には二人の吐息と、交わる音だけが響いている。

「ん……。上手。士郎は本当に、あっ。料理上手くて、その上……床上手……なんだから」

 幸せな交わり。愛し合う男女の営み。

「ん、んん……。くぅぅ。あ……あん……。気持ちぃ……。大きくて、すごい」

 痛くないように。負担にならないように。気を使っているのが大河にもわかる。だからこそ大河は言った。

「士郎。思いっきり、めちゃくちゃに動いてみて」

「おいおい。大丈夫かよ?」

「大丈夫よ。それに、このままじゃ蛇の生殺しでしょ?」

 ずっとこのままでもいいけれど、それでは自分だけが楽しむ事になる。彼にも好きなようにしてもらいたい。

「……止めてほしくなったら、すぐに言うんだぞ?」

「うん。……うぐっ! あっ! はぅっ!」

 士郎はより深く体を大河の上に被せるようにして、深く、大きく腰を蠢かせた。

「んぅっ! すごい。……いいよ。その調子。んっ!」

 小さい頃からずっと見てきた男の子。それが今では立派になって、こんな風に一つに繋がれた。あの頃……一緒にお風呂に入った時に見たそれは、小指のように小さくかった。今ではもう、立派な大人。

「あっ! はっ! んっ! あっあっ! いい、よ。はぅっ! あぅっ!」

 奥の方で入り込んでは、一気に引き抜かれていく。

 ビクンビクンと体を震わせて、ものすごい圧迫感に耐えている。

「んっ! んぅっ! ほら、お姉ちゃんの中でイきなさい」

 どうにかして余裕を見せようとするけれど……。

「イきそうなのは、藤ねえの方だろ?」

 それは全くの図星。

「ん。……そんなこと。あ、あ、あ、ぁっ。あんっ! はぁんっ! な、ぃ……。し、しろぉ。だめ……おかしくなっちゃいそう!」

「いいと思うぞ。おかしくなっても」

 勢いは早まっていく。交わる事によって愛液が分泌されて滑りがよくなり、ズンズンとテンポ良く出し入れがされていく。

「はぅっ! もう、だめぇぇ! あ、あ、あっ! いく……! はぅっ! あぅっ! いっ……くぅぅ!」

「俺も。出すぞ」

 士郎は大河が達するのを見届けてから、ワンテンポ遅れて射精した。

 誰も来ない。二人だけ。静けさに包まれた家。

 体を重ね合う男女。交わりによって乱れた小刻みな吐息。

 士郎はぶるると大きく震えながら、大河の足を強引に引き寄せて限界にまで密着していた。

 びゅくびゅくと、熱き精が膣奥まで注ぎ込まれている音が聞こえる。

「で、てるぅ! しろうのが……わたしのなかにぃ! あついのが……いっぱい」

 昔なじみの、年の離れたお姉さん。そして、学校では担任。男女問わず、みんなから人気のある先生。

 とても大切な存在。帰ってくる場所。自分がいるべき処。どこにも行く必要のないところ。

 士郎の手で快楽責めにさせられて、放心してしまったような、寝ぼけた時のようなとろりとした女の目。

 子宮の方にまで挿入されたまま引き抜かれず、大きく開かれた割れ目。

 愛おしい。全てが……。

「ひゃぅっ! し、しろぉっ!? だ、だめ! おっぱいは、まだ!」

 剥き出しになったままの二つの膨らみ。士郎の手が覆い、ぷっくらと膨らんだ乳首を指先で握りつぶす。強く、ぐにゅぐにゅと。

 そうして士郎は射精されたばかりの膣内を、かき混ぜるように再び動き始める。

「だ、めぇぇ! あっ! はぅっ!」

 抜かないままでの二回目。初めてだというのに快楽責めにさせられて、大河は全身を汗だくにさせていた。

「ダメ、だって! ちょっと、休け……。あっ! んんんっ! はぁんっ!」

 大河の言葉を遮るように、濃厚なキスを交わす。初めて出会ってから何年もの時を過ごした仲。心の奥底に隠されていた感情が騒ぎ出す。

 本心が見える。ずっとこうしてみたかった。けれどそれは禁断の果実を貪る行為だとわかっていた。絶対にしてはいけなかった。相手の同意を得ずに無理やりに組み伏せて襲いかかるような、どこかでそんなどす黒い感情が士郎の心の奥で眠っていた。そんな、起こす事無く永遠に眠りにつかせていたはずの感情が目覚め、増幅されて、今になって完全に解き放たれた。

 だからこそ、一度の交わりで満足できるはずもない。この人を。……普段から藤ねえと親愛を込めて呼んでいる、お姉ちゃんのような女性を……。既に快楽責めにされて呆けたように弱々しい反応を見せている女の子を、更に、もっと、メチャクチャにしてやりたい。

「藤ねえ。藤ねえ……」

 にゅぷにゅぷ、じゅぽっじゅぽっ。士郎の精液にまみれた大河の膣内。この人を、自分の色に染めているんだと自覚するたびに、士郎は興奮が強まって腰の動きを止められない。

「あっ! あっ! あっ! 激しい! 激しいよぉ! あひっ! はぁぁっ! はぅっ! いい! 気持ちいぃ! もっと! もっと突いて! もっとぉぉ!」

 結局この日、洗い物が最後まで終わることはなかった。

 行為を終え、大河がふらふらしながら無理やり洗い物を再開しようとしたところ、好都合だとばかりに士郎は立ったまま後ろから挿入をしてきたものだ。

 安産型のむっちりとした尻に下腹部をくっつけて、立ちバックスタイルで。勿論大河は快楽に抗えずめちゃくちゃにされた。壁に手を付かされてガツガツと突き込まれたり、床に四つん這いにさせられて、ズムズムと蠢かれたり。

 その度に大河は豊かな胸の膨らみをぶるんぶるんと揺らし、大きく口を開けて喘いだ。もっとして。もっと突いて。もっとわたしをイかせて。めちゃくちゃに犯してと、子供のようにおねだりの思いを口にした。

 二人は離れることなく、ひたすら密着を続けた。

 一緒に風呂に入って互いの体を洗い、互いの身体中に舌を這わせて汚れたのでまた洗った。そうして同じ布団で抱きしめ合ったまま、朝がくるまで体を重ねて愛を確かめた。

 やがてお互い数え切れないくらいの絶頂を迎えて力尽きて、一つに繋がったまま、浅い眠りについていった。

 それは、平和だけど決して退屈しない日常の始まり。

 士郎にとって大河は騒がしくて、眩しくて、けれど側にいて心の底から安心できる人。

 何か一つでも噛み合わなかったらまるで異なる……例えば地獄のような日々が始まったのかもしれない。だからこそ、このやかましくも可愛い二十五歳児と結ばれることができたのは、最高の幸せだ。

 士郎は朦朧としていく意識の中で、満足感を噛みしめながらそんな風に思ったのだった。




-了-