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甘え方、教えて










「朋也っ」

 それは日曜日の昼下がりというリラックスタイムのこと。明るい光が差し込むそこは朋也の自室。ソファーなどという洒落たものは無論存在しないわけで、二人は仕方なく代わりにベッドに腰掛けていた。そうしていたら、朋也のすぐ隣に座っている智代が何故か嬉しそうに微笑みながら近づいてきたのだった。

「智代?」

 智代は突然朋也の左腕にしがみつくようにして、抱き着いた。そうして続けて云った。

「どうだ。私もなかなか女の子してるだろう?」

「してるもなにも女の子だろ?」

 そうじゃないんだと智代は云った。世間一般で云う普通の恋人。彼女は彼氏に対し、いつもこんなふうにべたべたくっついて密着して甘えたりするものだろうと云いたかったのだ。

「私も朋也にこんなふうに甘えてみたかったんだ」

 だから折角の日曜日だと云うのに、デート先は自室になったのだった。なるほどそういうことか、と朋也は理解した。外でのデートは楽しいけれど、確かにこんなふうにはできないだろうなと思った。妙にアグレッシブなのは、恐らく前もって決めていたのだろう。雑誌やドラマを見て予習したような、固さと云うべきかぎこちなさがあった。

「甘えてみたかった、ねぇ」

「何だその、似合わないとでも云いたげな目は」

 智代はとても不満だったので、目を細めながら朋也を見つめてみる。

「これでも私はお前の一学年下で後輩なんだ。当然歳も一つ下なのだぞ。年下なんだから、年上の恋人に甘えたっていいはずだろう」

 全くもって理屈は正しい。が……。

「確かにそれはそうなんだが。お前はあまりにも凛々しくて、どこからどう見ても年下に見えない。更に俺は自他共に認める駄目男で、逆にお前は誰からも認められているスーパーガールなわけでな」

 朋也は本当のことを云う。智代は強くて凛々しくて、生真面目で真っすぐで誰からも頼りにされていて、朋也から見ても格好いい娘だというイメージなのだった。

「いけないのか? 私は普通の女の子のように、好きな人に甘えてはいけないのか?」

 智代はため息をついて、朋也の腕を掴む力を緩める。残念で悲しそうな、沈んだ表情になっていく。

「いや、全然いけなくない。ただ」

「ただ?」

 一つだけ云わせてもらう。と、朋也は前置きをしてから云った。

「甘え下手なんだな」

 智代は困惑した。折角予習してきたのに、雑誌やドラマを見て研究して頭の中でイメージしてきたのに、そんなこと云われてもわからないと、そう思った。

「朋也。こんなこと、だれにも聞けない。……その……甘え方というのを教えて欲しい。どうすればいいのか」

 頬を赤らめてうつむき、消え入りそうな声で智代は呟いた。普段の、迷いの無いイメージは完全に失われていた。

 例えばだな、と朋也は云いながら、ごくさりげなく智代の体を引き寄せて。そして――。

「……え」

 極めてさりげなく唇同士が軽く触れ合った。智代は虚を突かれたように、瞼を閉じる暇すら無かった。一瞬呆然とし、すぐに何をされたか気が付いて……。

「な……。と、突然何をするんだ!?」

「キスしただけだが。嫌だったか?」

「い、嫌じゃ……ない! けど、突然……。あっ……」

 抗議のようなそうでないような。そんなことをしようとしていた智代はまたも虚を突かれてしまった。一度目と同じように軽く触れ合う唇同士。二度目のキスは智代の頭を更に混乱させていく。

「な、なっ……! 何をする……んっ! んんん!」

 そのまま有無を云わさず三度目のキス。それは二度目までのライトなものとはわけが違った。深く、唇にかぶりつくようなディープキス。濃厚で、長いキス。今まで体験したことのなかった熱い感触。

「ん、ん……んぅっ! あ……」

「嫌じゃないなら、何なんだ?」

「あ、あ……。は、恥ずかしい……の」

 込み上げて来る羞恥心。それは一気に増幅していき、涙となって頬を伝う。

 朋也は思い出す。誰だったかが『武士みたいな娘ね』と、智代と話をし終えてから云っていたけれど、今の言葉は全く当てはまらない。『恥ずかしいんだ』という男性的なものから『恥ずかしいの』と、動転した揚げ句につい出てしまった言葉。可愛いな、と朋也は思う。

「でも、誰も見ていない。どうせ甘えるのならこれくらいはやってみようぜ」

「……」

「嫌だったか? やめるか?」

「意地悪……しないで、くれ」

「ごめんな」

 嫌なわけがない。朋也は空気の読めない一言だったと謝ってから、またキス。

「ん、ん……」

 智代はようやく瞼を閉じることができた。けれど、恥ずかしさは収まるどころかますます込み上げて来る。そうだったのか。こんな恥ずかしいことを自分からやらないといけなかったのか、と思い智代は段々自信が無くなっていくけれど、朋也は遠慮しなかった。

「ん……」

 楽しいキス。

「あ……」

 嬉しいキス。

「んん……」

 可愛らしいキス。

「んぅ……う、ん」

 そして、舌を絡ませ合うようなエッチなキス。智代は完全に翻弄されつつ、拒まなかった。

 二人はいつしか抱きしめ合い、ベッドの上を左右にころころと何度と無く転がっていた。

「とも、やぁ……ん、ん」

 呼吸を止めるわけにもいかなくて、智代は堪え切れない思いを吐き出すように、朋也の名を呟いた。

「お前。可愛いよ」

 朋也は云いつつ智代の長い髪を手ですくってもてあそび、頭を撫でてやりつつ更にキスをする。

「ん、ん。好き……だ」

「俺も」

 さすが飲み込みが早い、と云うべきだろうか。十分甘え上手になったじゃないか、と朋也は思った。

「朋也……。お願いがある……」

 朋也のキス攻勢も一段落ついた頃のこと。智代はふと朋也から離れ、ベッドの上に立ち、スカートの裾を両手でもってたくしあげた。露になったショーツの色は白かったけれど。

「お、お前が……優しくしすぎるから……。き、キスばっかりして……私を困らせて、恥ずかしがらせすぎるから……」

 秘所の部分に当たる布地はじっとりと湿っていて、割れ目の筋がくっきりと透けて見えた。その湿りは拡大を続けていて、足元にもたれてきていた。

「わ、私のここは……こんなふうに、なってしまった……。体が熱くて……たまらないんだ。恥ずかしくて……恥ずかしすぎて……。す、好きって気持ちが……あふれそうで……。い、いやらしいってわかってる。わかってるけれど……もう……」

 普段の凛々しい表情は無く、泣きじゃくる寸前のようだった。

「も、もう……だめなんだ。おかしくなってしまう。だ、だから……お願いだ。し、してくれ……っ。せ……セックス、してくれっ! お、お前の……そ、それを……私の中に入れてくれっ! お、お願いだ」

 自棄っぱちになったように叫んだ。何というはしたないことを云っているのだろう。智代は自分で気付いていつつ、云わないではいられなかったのだ。ごまかすことなどできなかった。智代はどこまでも真っすぐなのだった。朋也は智代を優しく引き寄せた。

 普段、散々いたずらしたりお願いしたりして、お前はしょうがないやつだとか呆れられながらすることを、今回は智代から。あまりにも珍しいシチュエーションだった。智代をそんな状態にまで追い込んだのは朋也。そんな智代があまりにも愛しくて、望みどおりにしてあげなくてはと朋也は思った。





…………





「あ、あっ……んんっ! 好きっ……好き、好きぃっ。……んんぅっ!」

 対面座位。互いに抱きしめ合いながら一つになる。智代は必死に腰を上下に揺さぶり、込み上げて来る思いを口にし続けた。朋也はそれに答えるかのようにキスを繰り返した。互いの鼓動も息吹も感じる、密着した状態。

「んはぁっ! だ、だめ……だ。ち、乳首……摘ままないで、くれ。あっ!」

 どさくさに紛れて服をはだけさせられ、大きな膨らみをまさぐられ、ぴんと起ってしまった乳首をいじくられる。

「智代。こういう時はさ」

「んっ!」

 朋也は耳打ちする。智代は目を細めて視線を逸らす。

「あ、あああっ! き、気持ちいいんだっ! い、いってしまう……! と、朋也ぁっ! あっあっあっ! も、もっと……突いて、くれ!」

 朋也は苦笑しつつ、もう一度耳打ち。そーいう時は言葉を変えるんだよ、と。説明口調を改め、シンプルに。

「う、あ……ああっ! つ、突いて……! もっとぉっ! あひっ……い、いくっ! いくっ! い……いいい、いっちゃう……っ! う、うあああああっ!」

 智代は半狂乱になったように腰を動かし……やがて、達した。





その後も、二人は肌を重ね合わせた。





「朋也。どうすれば私は朋也を気持ち良くすることができる?」

 熱心な質問。朋也に気持ち良くなって欲しい。好きな人に尽くしたい。ただその一心。

 口で、と云われて。そうか、口でしゃぶると気持ち良くなれるんだな、と智代は納得したように云った。

「ん、ん、ん、ん、んっ!」

 ひたすら熱心に口で愛撫する。目を閉じて、一気に。

 やがて朋也が達して射精すると、智代はとても嬉しそうに微笑んだ。

「何でもするぞ。朋也のためなら」

 じゃあ今度は、と朋也が云う。智代は首を傾げながら従う。

「胸で挟んでしごけだなんて、変なことをして欲しがるものだな」

 でも。気持ちよくなってくれるのなら、と智代は一生懸命してくれた。






…………






「ふふ」

「そんなに嬉しいのか?」

「当たり前だ」

 しきりに笑う智代。ベッドの上で朋也に腕枕をしてもらってご満悦といったところ。

「私にも段々わかってきたんだ。甘え方というものが」

 そうか、と朋也は頷く。

「こんなに幸せなものだなんて、知らなかった。だから、嬉しいんだ」

 どんなものだと思っていたんだろう、と朋也は思った。

「だから。これからは、遠慮なく甘えるからな」

 そして朋也の頬にキスをした。

 智代の性格からして、本気で甘えてくるのだろう。

 これはちょっとばかり大変かも? などと思っていたら。

「朋也ぁ」

 智代は猫なで声を出しながら朋也の上に覆いかぶさってきて、頬にキスをした。

「ふふっ。隙ありだぞ」

 云ってる側から、だった。これはもう、大変な可愛らしさだな、と朋也は思った。































----------後書き----------

 ことみとか有紀寧のあまあま話は時折書いてましたけれど。

 智代で甘ったるいお話を書くとしたら……。と、今回はそんな感じでした。

 いかがでしたでしょうか。



よろしければご意見ご感想をくださいな。








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