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-瀬名愛理編-















 状況としてはもはや問答は無用、とでも言ったところだろうか。初っぱなから、ああもうじれったいわねぇと言わんばかりに両手でバンッと乱暴にテーブルを叩く音が響く。そして続いてこの場……つまりは部屋の借り主である愛理の叫びが新吾に向け、とんでもない言葉が怒声となって響き渡る。安普請なアパートの薄い壁などものともせずに。

「セックスするのっ!!!!」

 苛立ち、キッとしたきつい眼差しはしかし、どこまでもまっすぐで純情で、それゆえに時折回りが見えなくなることがあるようだった。

「あ、愛理」

 当然の事ながら、言われた方は思わず硬直し、絶句。

 事の顛末は簡単。最近何かと忙しく、二人きりになる時間が少なかったために、休日に二人きりになって愛理の方から超が付くほど積極的に求めてきたのだ。もっとも、最初は猫がすりすりするかのようにいちゃいちゃと典型的なバカップルをしていただけだったのだが、段々とエスカレートしていって今に至るわけだった。セックスも満足にできないカップルって、それってどうなのよ! と、そう思ったのだから。無論新吾もこれまで何もしようとしてこなかったわけではない。だが、いざ事に及ぼうとすると……。

『お楽しみのところお邪魔致します〜! アンジェでございます〜!』

 野良メイドアンジェが元気よく乱入。

『兄さん、愛理。差し入れ』

 とっても兄と親友思いでマイペースな桜乃がおいしいものとか、主に愛理の救済を目的とした食料援助という名の差し入れを持ちながらやってくる。

『瓜生くん、愛理ちゃん、遊びに来たよ〜』

『うりゅ〜!』

『愛理〜。それとついでのクズ虫! みう先輩が遊びに行こうって言うから一緒についてきたぞ〜』

 更にはみう先輩とぱんにゃと紗凪までもが遊びにやって来た。このように毎回乱入する影が多数なのが定番パターンだったのだが、今日に限って言えば誰もいない。右を見ても左を見てもやっぱり誰もいない。静かに耳をすませてみても気配すらない。するなら今のうち、と愛理は判断したのだった。

「ここで今しないのならいつどこでするって言うのよ。ホテルに行くお金なんてどこにもないし、そ……外でするなんて絶対嫌よ!」

「ま、まあ、無理にしなくても」

「新吾。それは、あたしはえっちする魅力もないってこと?」

 ゆっくり健全なお付き合いを続けていけばいいんではないかと思う新吾に対し、じんわりと愛理の目が潤んでくる。もしかして、愛理の方から積極的に『しよう』だなんて言うのは、新吾は気に入らないのだろうかなどと思ってしまったから。

「いやいやいやいや、違くて」

「なら、してよ!」

「う、うん。えーっと。どうする?」

 実行段階に話が進むと、案外すんなりとは進まない。

「ど、どうするって。それは……。う〜!」

「ま、まあとりあえず。するにしても、そのどてらは脱いだ方がいいんじゃないかな?」

 突如、どてらの話。わけがわかんないと言いたくなる愛理。

「どうしてよ! このどてら、暖かくていいのに!」

「そりゃ、そうかもしれないけれど、雰囲気的に……」

 一瞬で、なるほどと思った愛理。

「ああ、まあ、そうよね。確かに雰囲気的にこれは、ないわよね」

 何とも言えない微妙な時間が続いていく。そうして、有耶無耶なままこの話はなかったことに……ならなかった。愛理はどてらを手早く脱ぎ捨て、ばさりと音がする……わけではなく、きちんと律儀に折り畳む。

「はい、どてら脱いだわよ。それじゃ……」

「どうしてもするんだね……」

「あったりまえでしょ!」

「その前に、シャワーでも……」

「水道代節約してるからシャワーなんてだめよ。……そうか。じゃあ、お風呂の中ですればいいのよ。そうよね、それが一番よね」

 そうと決まったら話は早い。まったく愛理は決断力に優れているのだった。





…………





 ああ、気持ちいい。こんな風にして一緒のお風呂に入るのはいつ以来だろう。などと新吾が思う余裕はなく、それ以前の段階でまたもたついた。

「っ!」

「だから、無理にしようとしなくても……」

 ようやくと言うべきか。いざ服を脱ぐ段になってから、自分は今どれ程恥ずかしいことをしようとしているんだろうということに愛理は気づいた。そんなに何度もしているわけではないし、改めて素肌をじっくり見られるのって、もしかして今回が一番なのではと疑問に思ったから尚更。それでも負けん気の方がためらう気持ちを上回る。

「いいからするのっ! う、後ろ向いててっ!」

「う、うん」

 どうせこれから一緒に湯船に入り、それどころか肌を重ねて交わろうとしているのだから、着替えの風景を見なかったところで意味なんかないのではないかと新吾は思ったけれど、女心は解析不能なくらいに複雑なようだったし、それに何より今ここでそんな事を言うと事態が色々とややこしくなりそうなので何も言わないでいた。自分のすぐ背後でもぞもぞとうごめく音。顔を真っ赤にした愛理が一枚一枚服を脱いでは、丁寧かつ律義に畳んでいるのだろう。風景が容易に想像できてしまう。

「くっ……。う〜〜〜っ」

「愛理。何もそんなに無理にしなくても」

 愛理は意地を張ったらずっとこうなのだった。平然と服を脱いでいるように見えて、吐息や恥じらいの声が聞こえてくる。

「嫌よ。だって……。たまに、新吾とえっちしなきゃ……いつかそのうち嫌われて、あたしの側から居なくなっちゃう」

「そんなことないよ。えっちしなかったくらいで嫌いになったりなんかしないから。俺を信じて」

 確かにそうだろう。新吾の言葉は事実だし、誰よりも信じている。けれど、愛理が求めている理由はそれだけじゃなかったのだった。

「……でも。違うのよ。体裁とか、彼氏と彼女がどうとか、そんなんじゃなくて。あたしが新吾とセックスしたいの。無理なんかしてなくて、純粋に」

「愛理」

「だめなの? そりゃ、女の子からこんなこと言うのは変だと思うしはしたないとも思うけど、でも……でもっ! 我慢できないのよぉっ! 女の子だって好きな人とセックスしたくなることだってあるでしょ!?」

「うん。あると思う。全然変じゃないし、はしたないとも思わないよ。好きな人と交わりたいなって、俺も思うしさ」

「新吾……。じゃあ」

「うん。いいよ。今からえっち、しよ」

「……ありがと」

 そう言ってくれると、本当に気が楽になる。何も構える必要なんてないのだ。愛理はそのまま無言。ごそごそとうごめき、引き続き服を脱いでいく。新吾は思う。じーっと音がする。恐らく、スカートを外す為にチャックを降ろしているんだろう。そして次は何を脱ぐんだろう、と思っていたら。

「わ、わ……!」

「愛理?」

「な、んでもないわよ! こっち見な……ああああっ!」

「わっ」

 声が気になって新吾が後を振り向いた所、ショーツを脱ごうとして上手くできず、片足立ち状態でよろめいてつんのめる愛理がいた。そして次の瞬間、ショーツ以外全裸のまま新吾を押し倒して乗っかっていた。いわゆるマウントポジションだった。

「あ、あ、あ! ち、違っ!」

「……うん。わかるから何も言わなくて大丈夫だよ」

 愛理が言おうとしていたこと。それは『性欲に飢え、盛って新吾に襲いかかったわけではない』と、そういう事。新吾は全てお見通しだから、愛理を落ち着かせる為にそう言った。

「そ、そう。わかってくれるのならいいのよ。……お待たせ。全部、脱いだわ」

 ばつが悪そうな顔をしている愛理。新吾は段々とおかしくなってきて、微笑を見せながら言うのだった。

「それじゃ愛理。えっち、しよっか」

「……うん」





…………





 愛理の一言は涙ぐましい程倹約根性に満ちていた。つまりは、お湯が汚れちゃうからやっぱり湯船に入らずにしようとのこと。そう言うわけなので、お風呂場ではなくその手前の脱衣所という中途半端な場所ですることになった。

「あ、ん! も、もう。どこ触ってんのよ!」

「え。触っちゃだめだった?」

「……だめじゃないけど。恥ずかしいじゃないのよ、もう。本当に、優しく触るんだから……それがかえってくすぐったくて、声が出ちゃうじゃない……」

 すねたような態度は照れ隠し。段々と消え入るような声。そもそも触れ合うのが目的なわけなのに自分は何を言っているんだろうと愛理は思った。

「愛理」

「な、何よ」

 新吾はくす、と微笑みながら愛理に近づき、キスをした。

「んっ!」

「嫌?」

 目を大きく見開く愛理に対し、新吾は先回りして聞いてみる。

「そんなわけっ」

 大好きな人とのキスが嫌なわけがない。ムキになって言い返そうとするけれど、新吾の一言に言葉が詰まる。

「よかった」

「っ!」

 新吾が心からの安堵しているとわかる笑みを見せる。愛理はまるで自分が悪いことをしている気にさせられる。自分の態度は、優しく触れてくれる恋人を拒絶でもしているかのように感じたから。そもそも、これまでまっとうにセックスを行えないでいたのは自分のせいじゃないかと思った。

「新吾」

「うん」

「抱いて、よ。大丈夫だから」

「でも、ここでいいの? やっぱりお風呂の中でする?」

 改めて新吾に問われて、愛理は少し脱力してしまう。

「う……」

 狭い脱衣所。脱いだ衣服がかごに入っていたり洗濯機があったりこれから洗う予定の洗濯物が置いてあったりとムードもへったくれもないところ。が、改めて考えてみても、お風呂の中でするとなると湯船に入ることになるわけで、そんなところで暴れるように激しくしたりなんかすると水はこぼれるし汚れるし……。愛理は現状の財政状況を考えて、やっぱりそれはちょっとと思ってしまったが、そんな自分が情けなく感じる愛理だった。

「俺はどこでもいいよ。愛理のことが好きだから」

「うぅ……。ごめん……。お言葉に、甘える」

 新吾は笑顔で頷いてくれた。何故だろうか、新吾の前ではとても素直になれる。愛理は新吾に身を任せ始めた。

「ん……」

 温もりと優しさに溢れているキスを愛理はねだった。新吾は微笑みながら、愛理の気が済むまでしていいよ、と言ってくれた。愛理は素直に甘える。キスだけじゃなく、新吾に抱き着いて思う存分温もりを感じる。胸元に頬をすり合わせ、額同士をこつんとくっつける。

「んん、ん……。新吾ぉ」

 新吾以外の男だったら、絶対にこんなことをしたいと思う気は起きないことだろうし、させる気すらないのに。どうしてこんなに穏やかな気持ちになっていくのだろう。一度、二度、三度とキスを繰り返す度に気持ちが落ち着いていく。けれど新吾の言葉に甘え過ぎてがっついて、嫌われでもしないだろうかと不安になり、涙目を見せてしまう。すると新吾は決まって言う。

「愛理。思う存分甘えて。俺も、そうしてほしい」

「……」

 ああ、この人はあたしの気持ちなんて全てお見通しなんだ、と愛理は思った。したいようにさせてくれるんだ、と。

「うぅ。新吾ぉ」

「うん。もう、キスはいいの?」

「あたしが、今度はする」

 度重なるキスで酔っ払ったようにほわんとした表情の愛理は、突然しゃがみこんだ。今なら何でも、どんなことでもできてしまう気になっていた。

「あ、愛理? えっ? わっ!」

「んんぅ」

 細くくびれた腰、すらっとした背筋、丸いお尻。ふわふわとした柔らかな髪。ひざまずいた愛理を上から見ると、とても色っぽく感じる新吾だった。学園でも随一の美少女が自分の為にこんな事までしてくれる。新吾は幸せだと思った。

「ん、んぅ、んぅ、んんんぅ」

 小さな口を目一杯開け、夢中でしゃぶる。じゅぷ、じゅぷ、と水音。

「ひもひいぃ?」

 くぐもった声で上目使い。

「気持ちいいよ、愛理」

 それを聞いて、愛理はとてもうれしくなる。新吾も同じ気持ちを伝える。

「愛理が口でしてくれるなんて、うれしいよ」

「んん、んぅ、んぅぅ」

 わき目もふらず、ただひたすら口を上下に、舌を左右に動かしている。好きな人に気持ちよくなってもらいたい。その一心だった。

「く、ぅ」

 思わず声が漏れてしまうくらいに濃厚だった。が……。

「んうぃっ!?」

「いっ!」

 突如、かごの中から着メロがけたたましく鳴り、驚いた拍子に少し八重歯が当たってしまった。

「あ……。ご、ごめん! 新吾! 大丈夫!?」

「ああ、だ、大丈夫。ちょっと痛かったけど」

「ごめん……。ごめんなさい……。う、う……」

 一生懸命していて上手くいっていたのに失敗してしまった。愛理の目尻に涙がたまっていく。着メロは未だに鳴り続けているけれど、出るどころじゃなかった。

「あ、あ……。愛理、泣かないで。大丈夫だから」

「どうして……。どうしてそんなに優しいのよ。あたし、何だか上手くいかないことばっかりなのに」

「それは、愛理の事が好きだから。ひざまずいて、それも口で……恥ずかしいのを堪えて一生懸命、俺を気持ちよくさせてくれたじゃない。それだけでも十分嬉しいよ」

「……」

 愛理の頬を涙が伝って落ちていく。しばらくの間愛理は新吾に抱き着いて泣いた。どれほどの時間が過ぎたかはわからないけれど、決意を秘めて立ち上がる。

「新吾の好きなように、突いて……」

 プライドも恥じらいもかなぐり捨てて、壁に両手を着いてお尻を差し出した。

「優しくなんてしないで。痛くない、だなんて聞いたりしないで。本気で……思いっきり、激しく突いて。あたしの体で感じて、気持ち良くなって……出して」

 それが愛理の優しさ。真っすぐすぎてとても不器用で、どこまでも意地っ張りで、好きな人にとことん尽くしたくて精一杯。緊張に耐えるため歯を食いしばっている愛理。丸く大きなお尻は剥き出しにされたまま、ふるふると揺れている。気高い性格の彼女が恥じらいなどかなぐり捨ててここまでしてくれている。新吾はもう、言われるがままに腰をすすめるしかなかった。そうしなければ愛理に申し訳ないし、何より新吾自身が愛理の体で感じたいと望んだのだから。

「わかった。……それじゃ、入れるよ」

「うん……。んあっ! あ、あ……」

 両手で愛理の腰をがっちりと掴んでから、大きくそそり立ったものを入り口に押し当てる。すぐさま強い抵抗を感じるけれど、構わず強引に腰を進めていく。圧迫感に愛理が切ない喘ぎを上げるけれど、突き破るくらいのつもりでひたすら腰の動きを速めていく。そうしなければ愛理は怒るだろうから。どこまでもひたむきで真っすぐな少女は、こうと決めたら徹底的に最後まで求めてくるのだろうから。真剣に、愛理の体で感じなければいけないと新吾は思うのだった。

「あぁっ! ああぅっ! あふぅっ! はうぅっ!」

 ずぶ、ずぶ、と柔らかくも強い抵抗をかきわけるように埋没していく。痛くない? 大丈夫? 今の愛理はそんな言葉を求めてはいないだろうから、代わりに新吾は答えてみせる。

「愛理。気持ちいいよ。すぐにいっちゃいそうだよ」

「そ、う……。あっ! うっ! あうんっ!」

 新吾の突きに合わせて狭い脱衣所兼洗面所の床がギシギシと揺れていく。全裸の愛理は窮屈そうに体をくの字にさせながら必死に壁に寄りかかる。

「愛理……愛理……愛理」

「あっあっ! ああぅっ! あんんっ!」

 ぱち、ぱち、と小刻みに音。若き男女が肌を重ねながら交わり合い、セックスを続ける音。

「愛……理」

「あふっ!」

 新吾は突き上げると同時にふるふると揺れている胸に気づき、背後から揉みしだく。愛理が上気した顔のまま舌を出し、更に切な気な喘ぎを上げる。色っぽいなと新吾は思い、背中に舌を這わせた。

「あ、あ……や、あぁ。くすぐったい……あふ……あぅあぅ」

「愛理の肌、きれい」

「あぁぁ。背中……だめ」

 肩、首、背中に舌を這わされ、鳥肌を立てながらぞくぞくと震える愛理。

「胸も、柔らかい」

「そんな……強……くぅっ」

 左右の胸をそれぞれ握り潰すように強く揉みしだき、人差し指と中指で乳首を摘まんでぐりぐりとこね回すと、愛理は息を止めながら堪えている。

「愛理のおま○こ。柔らかくて締め付けがきつくて中がぬるぬるしていて暖かくて、気持ち良いよ」

「う、うぅ。は、恥ずかしいわよぉっ! お、お、お……なんて、そんな恥ずかしいこと耳元で言わないでよぉ恥ずかしいんだからぁっ!」

 愛理は恥じらいの余りいやいやと頭を振った。

「だって、本当のことじゃない。愛理のおま○こに俺のち○こが奥までずっぽりと入り込んでぎっちりと締め付けているんだから」

「う、ううぅぅ。言わなくていいわよぉ。そんなことわざわざ……」

「いいや、言うよ。背中なめたりおっぱい揉んだりしたら途端に締め付けが良くなったんだよ。愛理のえっち」

「だってだってだって……仕方ないじゃない! 気持ちいいんだもん! 新吾がぱんぱん突くたびに体が熱くて、込み上げてきちゃうのよぉっ!」

「そっか。俺も嬉しいよ。……ごめんね意地悪な事言って。でも、本当に気持ちよかったから。じゃあさ、俺だけじゃなくってさ。愛理も一緒にいこうよ」

「う、うん……。わかった」

 そうして新吾はラストスパートをかける。手加減無用の十数秒間が始まった。

「あっあっあっあっあっあっあっあっあっ!」

「愛理……。もう、出そう」

「だ、出して……! 我慢しないで、いっぱい出して! あたしも……もう」

「愛理のお尻の割れ目、可愛い」

 恥ずかしいところをまじまじと見られているのを知り、愛理は目を見開く。

「お、お尻なんてあんまり見ないでよ! あああうっ! あううっ!」

「そんなこと言ったって、お尻の穴とかひくひくしてるし」

 とんでもなく恥ずかしいことを言われて、逆上したように叫ぶ。

「ど、どこ見てんのよおっ! ああああっ! あうっあうっあうっ! も、もう……! あたし……もう……! あああああっ!」

「俺も。出る……出……る。くうっ!」

 愛理は恥じらいながら絶頂を向かえていった。同時に新吾も背筋にしびれるような感覚と高揚感に満たされながら絶頂を向かえ、愛理の中から引き抜いたものの先端から大量の精液をぶちまけていた。愛理の背中からお尻にかけて、白くべっとりとした液体がたれていくのだった。





…………





 脱力し、壁にもたれ掛かったままずるずると沈んでいった愛理はすねていた。絶頂前に新吾に言われた事について。

「新吾の意地悪」

「だって、すっごく可愛かったから」

「お尻の割れ目なんて全然可愛くないの! それに……お尻の穴なんて、見ないでよ。恥ずかしいじゃないのよ……。って、思い出しちゃったわよ。うぅ」

 言ってから更に恥ずかしくなって後悔する愛理。

「じゃあ、胸とか乳首は見られても平気なの?」

「平気じゃないわよ! 見られるだけで猛烈に恥ずかしいんだから」

「じゃあ、いいじゃない。愛理のお尻はふっくらしていて安産型で、割れ目も穴も可愛かったから」

「そんなところ恥ずかしいだけで全然可愛くないのよっ!」

「でも、見てるよって俺が言った途端締め付けがすごくきつくなったんだけど」

「それは……。だって、恥ずかしかったから……」

「そっか」

「そうよ……。女の子の体は、どこもかしこも恥ずかしいところだらけなのよ」

 もっともな説明だと愛理は思い、新吾もその通りだと納得した。

「そうだね」

「そう。でも……いいわ。新吾こそあたしの体で感じてくれて、嬉しかったから」

「うん。愛理……」

「新吾……」

 見つめ合い、笑顔でキス。どんなお馬鹿なやりとりや会話すら甘く、楽しく感じる。

「お風呂……入らない? ただ入るだけでいいから」

「うん、いいわね。どっちみち、同じことよね。こんなところでケチケチしなくても良かったかも」

「でも、脱衣所でえっちするって言うのも、何だかえっちな気がして雰囲気が出ていて良かったかも?」

「そう、かな。……そう、よね。新吾。もう一回、いい?」

「もう一回でも、二回でも」

「んん……」

 甘えてキスをねだる愛理に、新吾は快く応じた。もう一回……もう一回。二度、三度と続いて行く。何度でもして欲しい。愛理の吊り目がちな表情がほわんとしていき、たれ目になっていく。

「好き。新吾。好き。んんぅ」

「愛理」

 とろけるような雰囲気の二人。

「ねぇ新吾。やっぱりお風呂の……湯船の中でも……えっち、しよ」

「いいけど。いいの?」

 お湯が汚れるから嫌だと言っていたのは他でもない愛理なのに、今はむしろ積極的に誘ってきた。変わりように新吾は驚きを隠せない。

「うん。したい……。もっと新吾に好きにして欲しいから。もっといっぱい愛して。お風呂の中で……あたしの中に入れながら、一緒にいっぱいキスして。あたしを……あたしの身も心も新吾の色に染めて」

 出会ったばかりの頃のようなツンケンした態度はもはや微塵も残っていない。まるで別人のようだなぁと、そんな風に新吾が思っていると。

「くしゅん!」

「わっ。愛理、早くお風呂に入ろう。風邪ひいちゃう」

「え? あたしじゃないわよ?」

 でも確かにくしゃみを聞いたような。……まさか、と二人は思う。愛理も新吾も慌てて脱いだ衣服を拾って着込み、ドアを開ける。するとそこにはいつも見慣れた面々。

「わっわっ! ば、ばれちゃいました〜!」

 くしゃみの元……。野良メイドなアンジェこと、アンジェリーナ・菜夏・シーウェルがそこにいた。

「アンジェ〜! 何くしゃみなんかしてんだ〜!」

「わ〜! さっちゃんさんお許しを〜! へ、へっどろれしゅ取っちゃいや〜なのれしゅ〜!」

 ヘマをしたアンジェにつかみ掛かるのは紗凪だった。そして更にその後ろには……。

「兄さん、愛理、ごめん……」

「激しかったね〜」

「うりゅりゅん」

 申し訳無さそうな桜乃と、いまだにドキドキしていそうなみう先輩。そして何故か欲情していそうなぱんにゃがいた。

「さ、桜乃……と、みう先輩と、ぱんにゃまで。ど、どこまで……見てた?」

「激しく交わり合ってるところを一部始終……」

 桜乃は目を伏せながら静かに言った。途端に愛理が爆発したようにまくし立てる。

「なっ! なっ! なああああっ! 何でよ! どうしてよ! ちゃんと鍵かけてあったじゃない! どうしていつものようにこんなことになってんのよっ!」

「そ、それがですね愛理さん〜。鍵はかかっているのに換気扇は回っておりましたし、チャイムを鳴らしても何故か鳴りませんでしたし、何度ノックしても返事はございませんでした〜。これはもしかしてもしかすると、英国推理小説お得意の密室殺人事件でも発生しているのではないかと、アンジェとっても不安になりましてでございます〜」

 アンジェが早口かつハイテンションに説明する。

「あ……。しまった。換気扇消し忘れてた。それに今月厳しくて、チャイムの電池代を削っていたんだったわ……。バイト代が入ったら取り替えようと思っていたんだけど」

 不覚だったとばかりに愛理が言った。チャイムが鳴らなかった理由はそんな涙ぐましい財政事情によるものだった。

「最後の手段。愛理の携帯にかけてみたけど、出なかった」

 あ、あの時の電話か、と愛理は思った。フェラに失敗して八重歯を当ててしまった原因となった電話は桜乃からだった。けれど無論、責める気になどなれるはずがなかった。桜乃の電話は愛理の事を心配したが故のことなのだから。

「いないみたいだから帰ろうかって思ったんだけどね。だけど……」

 みう先輩が思い出すように言う。悪のりをした二人は暴走を開始する。

『アンジェ! メイドたるもの、鍵開けの一丁くらいできるだろう?』

『もちろんでございますよさっちゃんさん! このアンジェ、鍵開けの一丁くらいブレックファースト前でございます! 安んじておまかせくださいまし!』

 紗凪とアンジェの悪巧みが始まった。メイド服のポケットから取り出したるは鍵開けの七つ道具。怪しげなピンだの金具だのを使って、鍵穴内をかちゃかちゃといじり回して数分後。かちゃん、とロックが外れるいい感じの音。とてつもなく手際が良いのだった。

『開きました〜!』

 えっへんとばかり、得意顔で言うアンジェ。

『アンジェ偉い!』

 でかしたとばかりに言う紗凪。

『きょうびのメイドは盗賊稼業もできると』

『菜夏ちゃんすごいすごい〜』

『うりゅりゅ〜』

 静かに感嘆の声を漏らす桜乃と、素直に褒めるみうとぱんにゃ。

『まっかせてください! これぞ進化したジョブことメイドシーフとお呼びくださいまし〜! 鍵開けでも罠外しでも何でもござれでございます〜!』

 こうしてアンジェの活躍により扉を開け、中へと侵入した一行だったが、聞こえてきた声により一瞬にして凍りつくこととなる。

『あぁっ! ああぅっ! あふぅっ! はうぅっ!』

 誰がどこからどのようにどう聞いてもあの時の声。そして、愛理の喘ぎ声。とてもハードに攻められているであろう声。攻めているであろう男性の顔は全員共通。途端に皆、ひそひそ声になって物音をたてないようなサイレントモードへと移行。

『さっちゃんさんこれって……。激しいでございますね』

『アンジェ、静かに!』

『兄さん……愛理……』

『わぁ。ぱにゃちゃん、しゃべっちゃだめだよ?』

『うりゅうぅ』

 ドアの外で聞き耳を立てるやじ馬数名。恋人同士、こういう時もそりゃああるよねと思い、誰もが皆野暮な真似はやめて、そっとしておいてあげようと考えて出て行こうとするも、そこはそれ。皆好奇心旺盛なお年頃故に、もう少しだけ様子を見ていたいなとも思い、ドアに耳を当てたまま動けず硬直してしまうのだった。もう少し。もうちょっとだけ。……お、終わる前にこっそり退散するから、とそんな感じに。

「う〜〜〜!」

 何と言っていいのやら、どうすればいいのやら。愛理は錯乱していた。

「兄さん、愛理、ごめん。……でも、幸せそうで、嬉しい」

 桜乃の静かな声は落ち着きを取り戻す作用があるかのようだった。

「そうですよね〜! もう何て言うか幸せいっぱいであふれ出ちゃってるって感じでございますよね〜!」

 が、逆にアンジェのやかましい声はパニックを再燃させる作用があるかのようだった。

「なにせ『あたしの身も心も新吾の色に染めて』だもんな。もう甘ったるすぎて胸焼けしそうだよ。ああ、あたしもみう先輩の色に染められたい〜!」

 紗凪の声もアンジェと同じく火に油を注いでいく。

「愛理ちゃんいいな。新吾君にいっぱい愛されて」

「うりゅうりゅ〜」

 みうの裏表のない素直な言葉。ぱんにゃもみうの言葉がわかっているのかうんうんとうなずいている。

「もう、何て言うか。全部見られちゃったなんて……」

「はは……」

 愛理も新吾ももはやため息をついたり苦笑するしかできなかった。

「それにしても変わるもんだな。新吾の色に染めて欲しいだなんて愛理が言うなんてな〜」

 今考えてみると最高に恥ずかしい台詞を連呼され、愛理も開き直って言い返した。

「あ、当たり前じゃない! はっきり言うわよ! 言わなきゃわかんないじゃない! 好きな人ができたらその人の色に身も心も染められたいって思うのは、女の子として普通の気持ちでしょ? あたしは……あたしは好きな人の色に染めて欲しい! ……新吾の色に、とことんまでに染めて欲しいのっ! 悪いこと!? 悪くないでしょ!? いいじゃない! だってだって……大好きなのよぉっ! だから……だから言ったの。新吾に色に染めて欲しい、って」

 やけっぱちになりながら嘘偽りなど全くない素直な宣言。最後はもはや涙声。

「はい〜! 全くその通りでございます愛理さん〜!」

 完全同意のアンジェ。

「あたしも異論なし〜。みう先輩〜。あたしをみう先輩の色に染めてください〜! ごろごろごろ〜!」

 みう先輩に擦り寄っていく紗凪。

「愛理の言う通り。私も好きな人の色に染まりたい、染められたい……」

 目を閉じながら、漠然としたイメージを思い浮かべて照れる桜乃。

「うんうん。やっぱり、真っ白な色のままじゃ寂しいもんね。女の子は、好きな人に染めてもらったり塗ってもらったりするのが一番幸せだよね、紗凪ちゃん、ぱにゃちゃん」

 母性本能溢れるみうが笑顔で頷く。

「りゅ〜りゅ〜うりゅりゅ〜」

「み〜う〜先輩〜。ごろごろごろ〜」

 愛理の主張に対し、みんな全くもって同意のようだった。この中には悪意のある者など一人としていない。

「ああ、何だかもう疲れて来たわ……。恥じらいも失せていくわ」

「そ、そうだね」

 互いに顔を見合わせて苦笑し合う新吾と愛理。

「それはそうと経験豊富な愛理さん、是非アンジェにも教えてくださいまし〜。好きな殿方に激しく愛してもらうって、一体全体どのようなお気持ちの良さなのでございますか〜? ……はう!」

 アンジェからの明らかにやじ馬根性丸出しで野暮で余計な質問に対し、がし、と愛理の手がアンジェのメイド服を掴む。愛理は笑顔を見せているけれど、とても威圧感漂う笑顔だった。どうやら『経験豊富』という言葉が愛理にとって気に障った模様。

「アンジェ……。今から実地で教えてあげるわ。そうね、お相手はお風呂に置いてあるデッキブラシの柄あたりでね! 大丈夫よ痛くしないから! さあ、こっちに来なさい!」

「あああ、愛理さんおおお、お許しを〜〜〜! みみみ、皆様お助けをおおおお〜〜〜! あああ、あ〜〜〜れ〜〜〜!」

 ずるずると引きずられて行くアンジェ。こうしてアンジェにとって恐怖のお仕置き時間が始まるのだった。

「初体験の相手がデッキブラシの柄って、しんどいなぁ」

 愛理の迫力にさすがに気圧される紗凪と。

「でも、案外気に入っちゃったりして。菜夏ちゃんだし」

 にっこりととんでもない事を言い切るみう先輩。そして……。

「兄さん……。お風呂ブラシの柄って……」

「りゅ〜りゅ〜」

 それってもしかしてとっても気持ちいいのかな、とか思っているのか、ぽ……と、頬を赤らめる桜乃とぱんにゃ。

「やめなさい。兄として人として、それはさすがにどうかと。ぱんにゃは……いや、何も言うまい」

 さすがに兄としてそれは許容し難い模様。

「あああ、愛理さんお許しをおおおお〜〜〜!」

「待ちなさいアンジェ! 誰が経験豊富ですってぇぇぇ!?」

「あ〜〜〜れ〜〜〜!」

 こうして、湯船の中でばしゃばしゃとやりあう二人の叫びが響くのだった。















----------後書き----------



 突如として、ましろ色シンフォニーなSSシリーズ『White Canvas』開始。取り敢えず全キャラ書く予定でいたりします。

 フリーで配布してくださるアイコン素材とかがあると嬉しかったのだけど、見つからず。ちょっと残念。

 愛理はとってもよい娘。どこまでもまっすぐで。だけど、感極まると時折とんでもない事言いそうだなと思い、最初の台詞になりました。そして、とってもいちゃいちゃあまあまな雰囲気に。

 次作をお楽しみに。


ご感想を頂けると嬉しいです。





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