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-小野宮結月編-















「女の子らしい表情といえば、やっぱりエッチな事をしてる時だよね?」

 小野宮結月は只今巫女装束姿で箒片手に境内を掃除中。同じように箒片手に掃除を手伝っている相棒こと瓜生新吾に対し、何気なくもあっけらからんとそんなことを口にしてみる。

「そう、なのかな?」

 突然の大胆な質問に一瞬『ぶほっ!』と大いに吹きそうになりながらも堪える新吾。答えには疑問符がついてしまった。

「何だか歯切れが悪いなぁ。違うって言うの?」

「違うも違わないも、俺はまだしたことがないから、よくわからないっていうのが正直なところかも」

「じ、じゃあ」

 新吾の言葉を聞いて結月の表情はにわかに好奇心を帯びはじめた。そうして表情をにやつかせ、口元近くで人差し指同士をせわしなく交差させながら望みを叶えてもらうことにする。付き合い始めて結構たつし、そろそろいいんじゃないかナと、わくわくしながら思ったから。

「えっち、しょ……んぐっ!」

「待って!」

 咄嗟のことだった。深刻そうな表情をした新吾が結月の口を慌てて抑える。そして警戒したように周囲をキョロキョロと見回す。

「うん。大丈夫」

「んんんうっ! もう、何をするのかな君は!」

「迂闊だよ。そんなこと聞かれた日には何て言われるか」

 新吾の指摘に結月ははっと我に帰る。甘い夢想を常に打ち破るジョーカー的な人が約一名いることをようやく思い出したのだった。結月のおばあさんこと小野宮セツさんその人である。

「あ……あぁ、おばあちゃんね。……そっか。そうだね。ごめん。確かに新吾の言う通り迂闊だったかも」

 考えてみれば簡単にはできそうにない。時間的にも場所的にも、そして人的な環境も。

「でも、新吾。……私はその。冗談抜きでしてみたいゾ? とても……。本気で」

「そりゃ俺も……したい。けど」

 誰もいない、だだっ広い境内のど真ん中で、二人そろって恥じらい俯きもじもじしてしまう。

「こりゃ! 二人とも何をぼさっとしておるのか! しっかり真面目に手を動かさんか! 働かざる者食うべからずじゃ! ……とでも言われそうな状況だよね、今の俺たちって」

「うん。そんな事先回りしなくて言わなくてもいいけど、確かにそんな気がする」

 じゃあさ、と新吾は言った。

「次の日曜日に……」

 改めてそのような機会をもうけましょうと新吾は提案。結月は笑顔で頷く。

「ん。わかった」

「でも、本当にいいの?」

「新吾じゃなきゃ嫌だよ」

 そんな気配りはいらない。今更そんなことを言わせないで欲しいと、結月は少し不満そう。が、ちょっと受け取り方が食い違っていたようで。

「そうじゃなくて。……ああ、勿論俺も結月じゃないと嫌だけど、そういう意味じゃなくって。多分……いや、絶対にそうだと思うんだけど。するのって、猛烈に恥ずかしいと思うよ? 試しに想像してみて」

 軽〜く言う結月に、大丈夫なの? と、聞いているのだ。

「そう、かな? 大丈夫だと思うんだけどなぁ……」

 実際どんな気持ちになるんだろうと思い、結月は目を閉じて想像を開始する。本番前のリハーサルといったところ。

「うん。……。ん。んん。んー。そこでそうして、ああなってー。こうなってー。それからそれから。う。あ。ああああっ! ひゃうううううっ! ふひゃあああああっ! し、新吾おぉっ!」

 結月の顔は突如真っ赤になって沸騰して、挙句の果てに爆発でもしてしまったかのようだった。例えるならばまさに瞬間湯沸かし器。……あまりの恥ずかしさにとんでもない叫び声を上げて新吾にしがみついてしまった。

「恥ずかしい……みたいだね?」

 少し涙目になりながらこくこくこくこくっと子供のように何度も頷く。普段の凛々しさなどどこへやら。ころころ変わる表情は本当にもう、可愛いなあと新吾は思うのだった。女の子らしくなりたいなんて言っていた頃が懐かしく思えるくらいに。

(最高に可愛い女の子だよ。結月は)

 などと口に出したりした恥ずかしさと嬉しさで大泣きでもされてしまいそうなので、新吾は懸命に堪えた。

「うー! うー……っ! うん……。恥ずかしい。猛烈に恥ずかしすぎるよ、あれって」

「だから、いいのかなーって。心配になっちゃって」

「う……。い、いい。大丈夫。それでも新吾とえっちしたい。頑張る。頑張ってみせる。きっと恥ずかしいの我慢できる。だから、お願い。……して」

「わかった。じゃあ、日曜日にね。待ち合わせ場所と時間は決まったら教えるから」

「うん」

 結月は約束だよと右手の小指を差し出して、指切りげんまんをしたのだった。





…………





 ――しかし、新吾は迷った。改めて約束して時間を確保したのは良いとしても、セッティングの方は大問題だった。つまるところ、一体どこでどのように事に及ぶべきなのか。結月の家などはまず間違いなく邪魔(言うまでもなくその一番大きな障害となってしまうのは、結月のおばあさんというあまりにも巨大で手強い存在)が入ることになるだろうし、かといってラブホテルなどというロケーションは一見無難なようで、誰かに目撃でもされようものなら途端に厄介なことになりそうで、極めてリスキーな選択肢であると言わざるを得ない。とにかく軽挙は慎むべきである。そんな風に新吾は自室にて、猛烈に悩み考え込んでいた。

(いっそそれなら学校? いやいや、それこそ神出鬼没なアンジェがいるし……上からひょこっと現れでもしたら一発で手遅れだし。それになぜかみんな、そういう時に限って現れるし。気配でも察してるのかな?)

 となるともはや。

(外……!? いや、それは流石に)

 確かに結姫女子学院の回りには豊かな自然……というよりもぶっちゃけ広大な山林が広がっている。そんな中ならば問題はないかと思ったが、ふと想像してみる。そういう所で行為に及んだ場合を想定して。

『し、新吾ぉ。本当にこんなところでするの?』

 心配そうな結月に、勿論だよと優しく言いながら心の中では、ごめん、どうしてもいい場所が見つからなかったんだ……。と、謝りつつも、やっぱり結月の緊張を解そうと抱き着いたりキスをしたりスキンシップを図る。そうしてソフトなお触りをしつつ事は進み、いよいよとばかりに結月の衣服を脱がしにかかるが……。

『う……。う……。う、う、うわああああっ! だめっ! そ、外でなんてできないいいいいっ! 恥ずかしいいいいいっ!』

 ぽつぽつと上着のボタンを外そうとしただけでこの有り様だった。誰もいないから、誰も来ないから、静かにしていれば絶対大丈夫だから! と、そんな風に声をかけてあげたとしても、超恥じらいモードの結月という根本的な問題を抱えていた。悲鳴でも上げられて見つかった日にはもう、弁解の余地すら与えられない事だろう。

「ど、どうすればいいんだ」

「お兄ちゃんはただ今お悩み中」

「わあっ!?」

 いつの間にか妹の桜乃が部屋に入ってきていて、床に腰掛けていた。それはそれでいつもの光景ではあるのだが、最近の桜乃は気配をまるで感じさせずに近付いてきたりする。

「さ、桜乃……。いつの間に」

「……ふふふ。妹は隠密行動をしているくのいちかもしれません。油断は禁物ですよ」

 桜乃は得意気に微笑む。気配を消すのが得意になってしまったようだが、まったく誰の影響だろうか。やはりメイド服なクラスメイトのあの娘かな、と新吾は思った。色々と間違った事を教えられては困るなぁとしみじみ思った。妹が知らない間にくのいちにクラスチェンジしているなんてなぁ、と。

「時にお兄ちゃん」

「う、うん?」

「結月お義姉さんとの契りは、既に交わしたのでございますか?」

「ぶっ! さ、桜乃っ!?」

 余りにも鋭い質問。それはもう、心を読まれてしまったかのようだった。契りを交わす――。様々な意味に受け取れるが、雰囲気的にはやっぱり新吾が想像していたことそのものだろう。

「なるほど」

 新吾の狼狽しまくった反応を見て桜乃は全てを悟ったのか、目を糸のように細めて頷く。そして落ち着き払ったまま、再度口を開く。

「契りはいつ交わすのでございますか?」

 まだしていないのですね。嘘とは言わせませんよお兄ちゃん。ふふふふ。とでも言いそうな桜乃。

「あ、あのね、桜乃……」

 新吾は大切な妹に対し、そういうことを堂々と聞くもんじゃありませんと窘めようとしたのだが、桜乃の目は真っすぐで好奇心旺盛で、そしてどこか慈愛に満ちているような気がしてしまい、結局できなかった。

「いつですか?」

 あくまでも淡々と、いつも通りのゆったりとした口調。これではまるで尋問そのものだな、と新吾は思ったが口には出さなかった。答えに窮する新吾に対し、桜乃は条件を出してくれた。素直に白状もとい、打ち明けてくれた暁には……?

「答えてくれれば、その日は愛理と一緒にどこかへ遊びに行きたい気分になるかもしれません。朝方から夕方頃まで、たっぷりしっぽりと」

 しっぽりってどういう表現!? 新吾は心の中で突っ込みを入れつつも、とっても親切な提案であると判断する。

(そ、それは助かる。けど……けど!)

「で、いつなのですか?」

 普段ならば純情可憐な桜乃のつぶらな瞳も、今は凛とした有無を言わせない雰囲気を漂わせていた。まさに、凛々しいモードの結月を凌駕するくらいに。このようにして新吾は遂に折れた。押し切られたとも言う。白状させられた、とも。

「日曜日。の、つもり……です……。あくまで予定……だけど……。でも、場所が……。困ってて……」

 妹に対して何故か敬語。とっても情けない姿だと新吾は落ち込むが、桜乃にとっては満足のいく解答のようだった。

「よろしゅうございます」

 よくぞ申してくださいましたとばかりに頷く桜乃。どこかそれは、結月のおばあさんのように貫禄に満ちあふれているような気がした。

「では、精力のつくお食事メニューを考案するために、妹はこれで席を外すと致します」

「あのね……。桜乃……」

 軽蔑でもされただろうか? 気を悪くしてしまっただろうか? 新吾は妙に不安な気持ちになってしまう。だが、それが杞憂であることはすぐにわかることになる。

「お兄ちゃん」

 何も変わったところはない。ただ普通に兄のことを呼んだだけだった。だが、今の新吾にはそうは思えなかった。文句を言うな。口答えするなと、何故かそんな風に言われているような威圧感を感じてしまったのだが……。

「は、はいっ!」

「私はお兄ちゃんとお義姉さんに、更に幸せになってもらいたいと、そう願ってるよ。本気で。……だって」

 最後の言葉は消え入るように小さく、フェードアウトしていったけれど新吾の耳には微かに届いていた。『私の好きな……お兄ちゃんの事だから』と。どちらが年上か全くわからないような気がした。本当に桜乃は優しい妹だ。色々と勘違いしていた自分は大馬鹿者だと新吾は更に落ち込むことになる一言だった。

「あ、ありがとう」

 照れ隠しなのか一切表情を見せず、茶化したように言いながら桜乃は部屋を出て言った。

「後の事はこの妹めに全てお任せください。それでは。ごきげんよう」

(桜乃……。格好いい)

 まさに千両役者だと新吾は思った。




このようにして、桜乃の暖かいフォローを受けつつ、約束の時はやってきた。





「えへへ」

 新吾の部屋。そのベッド上にて結月は枕を抱き締めながらくつろいでいた。

「新吾の匂いがするー」

(俺。……体臭そんなにきついかな?)

 結月は新吾のベッドでひとしきりごろごろと転がって戯れた後、愛情のこもりまくった視線を新吾へと向けながら言った。

「新吾ぉ。……それじゃ、そろそろ……しよ?」

「う、うん。いい……けど」

「けど?」

「結月はその……。恥ずかしく、ないの?」

 新吾がもじもじしながら言うと、結月は目をきらりと輝かせて言った。

「ふ。恥ずかしくなど、ないさ」

 突如キャラが豹変したように、キリっとした表情。女生徒達がいたら黄色い声援で溢れているところだろう。愛理達がいたら『ちょっと結月。色目使わないでよね! 騒がしくて仕方がないんだから!』とでも注意していることだろう。

「その証拠を君に見せてあげよう。試しに私の胸にタッチしてみたまへ!」

「え……。わっ!」

 新吾は手首を引っ張られ、ぺち、と結月のバストを手の平で包むように誘われた。ふにょん、ととても柔らかな感触が手の平を覆う。

「ほら。平気だろう?」

 胸に触れられても大丈夫。覚悟してきたのだから全く問題なし。えっへんと、胸を張って主張する。

 そうして数秒が経過する。

「わ、わあ!」

 動揺しまくってるのは新吾の方。

「ふ。胸に触られるくらいへっちゃらさ。……へっちゃら、さ。へっちゃら……だよ?」

 更に数秒経過。十秒、十五秒……結月は軽く目を閉じたまま微動だにしない。が……二十秒あたりを過ぎようとしたところで目を大きく見開いて、そして突然わなわなわなわなと震え出して。

「わきゃーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

「っ!?」

 圧縮された恥ずかしさが過給機で一気に叩き込まれたかのように、結月は絶叫を上げながら新吾の手を振り払い、ベッドの中にもぐりこんでしまった。ああ、やっぱり恥ずかしかったんだと新吾は左手の人差し指で頬をぽりぽりとかきながら苦笑するのだった。

「ああああああ! は、恥ずかしいっ! 恥ずかしい……。うぅ〜。平気だって思ったのに〜! くしゅん……」

 結月はそのままもぞもぞとイモムシのような格好で蠢き、顔を隠しながら後悔と自己嫌悪に打ちひしがれていた。

「あのね。そんな、無理しなくても」

 こういう事はその気になればいつでもできるから、と思ったけれど、残念ながら早々は難しいかなと言わざるを得なかった。

「やだ。新吾とえっちする。絶対する。しなきゃだめ」

「どうしてそんなにこだわるの?」

「だって……。したいんだもの。大好きだから。大好きな人ともっともっと親密に、肌と肌を触れ合わせたいと思うのは女の子として当然だよ。好きな人とそういうことがしたいって思うの、普通だと思う。なのに、こんな……うぅぅ」

「そう、だけど。でも……」

 無理はしないで欲しいと言おうとした。そうしたら結月は突如ベッドの中から抜け出してきた。猛烈な恥じらいを強引に忘れ去ったかのように、ババッと被っていたものを吹き飛ばして。

「そうだ! 忘れてた!」

「わあっ!」

「こんな時の為に、あれを用意しておいたんだった! あれを使えばきっと大丈夫!」

 そして持ってきていたリュックを手に取る。中身をごそごそといじるうちに、結月は新吾の方を振り向き、またまた恥ずかしそうに顔を赤らめながら言った。

「新吾。悪いんだけどいいって言うまでの間、後ろを向いててもらえないかな」

「え。あ、ああ。いいけど?」

 訳も分からぬうちにそのようなことに。布地がこすれ合う音がかすかに響く。脱いでいるのか着ているのか、あるいははいているのか結んでいるのか。とにかく何かしらの着替えをしているもよう。やがて時は過ぎ……。

「んしょんしょ、んしょんしょ……。ふぅ。よし、こっち向いてもいいよ」

 息を大きく吸い込み、気合いを入れる。結月の姿は大幅に変化していた。

「……何でその格好?」

「いや、雰囲気を変えてみれば、恥じらいも薄れるかなと思って。普通にしようとして、もしだめだったときの為に用意しておいたんだ」

 そういうものなのかな、と新吾は思った。コスチュームの変化がもたらす効果については半信半疑だったけれど、あえて口には出さなかった。

「ちなみにこれはコスプレ……ではないよ? 何せ私は本職なのだからね!」

「そりゃまあそうだろうけど」

 結月は今、私服を脱ぎ捨て鮮やかな紅と純白の交じり合った巫女装束を身にまとっているのだった。

「何だか、法力でも使って魔物でも追い払っていそうだよね」

「うん。そういうことならお札でも持っていれば完璧だったかな。持ってくればよかった」

「でも、本当にその格好でするの?」

 新吾の戸惑いに対し、結月の受け取り方は異なっていた。新吾はきっと、巫女服姿に対して可愛いね、とか純粋に微笑んでくれて誉めてくれてそのまま興奮度も通常の三割増しくらいになるかと思っていたのだから。

「わお。まさかのドン引き? はっ! ま、まさか君は『巫女は処女でなければ力を発揮できないんだぞ』とか、そういう古めかしい事を考えているんじゃあるまいね?」

「いや、ドン引きはしてないし可愛いとも思ってるけど。それ何の漫画? ゲーム?」

「だったら……ああもう、いいから襲って! 無理やりでも構わないから! ……でもあんまり乱暴にはしないで優しくして欲しいかも」

「襲ったり無理やりとか乱暴になんてできないよ。……けど、優しくするから、さ。いいよ、そのままで」

「あ……」

 明らかに混乱しまくっている結月に対し、とっても優しいキス。おいで、と誘われたみたいに結月には感じた。

「ん」

 ゆっくりと急ぐ事なく触れ合う二人。時間が遅く過ぎていくようでいて、過ぎてしまうのが惜しくて実は早まっているのかもしれないと思う。

「どうして君は」

 互いの唇が離れ、結月は言った。一瞬言葉にならなくて言い直す。

「……君がしてくれるキスは、いつもいつもこんなに優しくて、嬉しい気持ちにさせてくれるの? 何だかずるいなぁ。卑怯だよ。こんなの」

 結月は新吾の右手を掴み、巫女装束の胸元に潜り込ませ、直に当てさせる。

「結月?」

「私、今ものすごくどきどきしてるでしょ? 全部新吾のせい、だよ」

 ふっくらとした膨らみは柔らかくて暖かくて、いつまでも触っていたくなっていく。

「胸、触られてやっぱり恥ずかしいよ。けど、もう大丈夫。新吾だから……。もっともっと、限界にまで恥ずかしい気持ちになってもいい。むしろ、なりたい。だからお願い。最後まで、して」

 ありのままの自分をさらけ出せる。もう、全てを見られてしまっても構わない。結月はそう思った。

「ん。んん。新吾ぉ」

 二度、三度と立て続けにキス。言葉も行動も新吾に身を任せて甘える。巫女装束の胸元を緩めて晒すと質素なスポーツブラに覆われた膨らみ。結月はそれらをたくし上げ、胸と胸の間に新吾の手を誘う。

「ん。この服の時、普段は晒巻いてるんだけどね。……私の胸ってさ。結構大きいでしょ? 少なくともびぃかっぷはあるからね」

「うん」

 新吾は同意しつつも、びぃかっぷについてはあえて触れないようにした。あぁ!? びぃかっぷで悪いかこのクズムシ! と、クラスメイトのあの娘が思考の中にずかずかと割り込んできて思いっきり罵られそうな気がしたから。

「胸の大きな女の子って、好き? 嫌い?」

 ちょっと不安そうな結月。胸の鼓動が一段と早まっていくのを新吾は手の平に感じていた。

「嫌いじゃないよ」

「よかった」

 新吾の一言に心底安心したようだった。けれど、それだけでは終わらない。

「仮に小さくても、もっと大きかったとしても、結月の胸だから大好きになってると思う」

 新吾の一言に身もだえしそうなくらいに嬉しくなってしまう結月。きゅん、と胸が高鳴ったように思えて両手で押さえてしまう。

「ま、た……。君はどうしてそう……。私を溶かしてしまうつもり? 本当にもう、ジゴロでホストなんだから。全然人の事言えないよ」

 今日はもうお株を奪われっぱなしの結月。

「恥ずかしいの?」

「猛烈に恥ずかしいよ……。とろけそうなくらいに。もう……。んっ」

 恥ずかしさをキスでごまかそうとするけれど、かえって込み上げてきてしまう。

「ん、ん。もっと胸、触って。揉んで。いじって」

 キスと同時に、新吾は結月の胸元をいじくって弄ぶ。

「あっ。はぁっ……あっ」

 苦しそうに見えてしまう結月の呼吸に新吾はちょっと心配。

「痛くない? 大丈夫?」

「ん……。だ、大丈夫。むしろ、もっとして欲しい、かも」

「そうなんだ」

 新吾は結月の体をベッドに横たえて、上から覆いかぶさっていった。

「ん、んんぅ。新吾。好き……ん、ん」

 何度しても飽きない。呼吸をするかのようにキスを繰り返す二人。

「新吾ぉ。おでこ、こつんってして」

「うん。いいよ」

 額同士を触れ合わせる。目と目が合うと結月ははにかんだ笑顔。そうしてまたキス。その繰り返し。何度も何度も唇同士が触れ合っては嬉しくなって見つめ合って、またキス。二人の口元付近からぴちゃ、ちゅぷ、ちゅる、と湿った音が間断なく響く。

「新吾。だめ。キスしすぎ」

「嫌だった?」

「ん。違う。そうじゃなくてさ。このままだと、何だかキスだけで満足しちゃいそうだから。今日は、それだけじゃ寂しいから」

 ずっとし続けていたい。そう思う気持ちはやまやまだけど、変化を求めた。そんな結月に対して新吾は一つ提案。

「じゃあさ。キスしながら、しようよ」

「うん……。そっか。それなら同時にできるね」

 新吾は結月の体から一度離れる。そして、何気ない動作で朱色の袴をずり下ろして片足から外し、両足を大きく開く。

「あ……」

「うわぁ。濡れてる」

 結月の秘所の形がくっきりと分かるくらいにショーツにできた染みは拡大していた。

「う……うあぁ。き、君は私に対して、さりげなく猛烈に恥ずかしいことをしているよ? そ、そりゃ濡れちゃうよ。あれだけ優しくキスしてくれたり、胸をいじってくれたりしたらそりゃ……」

 言い訳なんて必要ない。正直に答えてくれて新吾は微笑を見せる。

「うん。嬉しいよ。感じてくれて。俺も、そうだから」

 今度はずるりとショーツまでもが足元までずり降ろされる。

「わひゃあっ! ま、また! どーして君はっ! ま、まだ脱がしていいなんて言ってないのに〜〜〜っ!」

「でも、脱がさなきゃ、できないよ?」

「う……。そう、だけど。……こ、心の準備くらいさせてよぉっ!」

「ぐしょぐしょだし、もう準備OKなのかなって思って。ちなみに、俺もこんな風になっているんだよ? ほら」

「あ……あ……」

 初めて目の当たりにする新吾のもの。ぴん、と伸びきってふるふると揺れているそれは太くて長くて大きくて、だけどこれだけ湿りを帯びてほぐされた秘所ならばあっさりと受け入れるのではないだろうか。

「怖くないから。大丈夫だから。ゆっくり入れていくよ」

「……」

 目を大きく見開き、目許には涙を浮かべながら結月はこくこくと頷いた。もう後戻りはできないし、時間稼ぎをすることもできない。する必要などない。

 ぴた、と股間の先に熱い感触。先端が当たっているのだろうと、目をきつく閉じている結月は想像した。やがて新吾は挿入を開始する。結月の秘所が指で大きく開かれていく。そんなところを触っていいなんて言っていないのにと結月は思ったけれど、もはやそんなことを言っている段階ではない。

「あっあっ。は、入ってくる。私の中に」

 数ミリ単位でゆっくりと侵入を続ける。しっかりと念入りに入り口を定めて杭を打ち込むような印象だった。体が二つに裂かれていくような、異物をねじ込まれていくような不安定な気持ちに結月は眉を釣り上げる。

「結月。力抜いて」

「う、ん。頑張る……。ふ、う。痛くないから、続けて……」

 結月はふと今の格好に気づく。ベッドの上に組み伏せられ、淫らに衣服をはだけさせられて二つの膨らみと乳首を晒し、更にこれ以上ないくらいにはしたなく両足を開かされている。絶叫物の恥ずかしさだけど、もういいんだと思った。

「新吾。胸ー。おっぱいの方がお留守だゾ? ……キスも、して欲しいよ」

「うん」

 新吾は右手で結月の後頭部を持ち上げ、顔を引き寄せて唇を塞ぐ。同時に左手で結月の胸を揉みしだいた。

「んぷ、ぅ。……あ、あぁ。胸も、あそこも、お口も。私の恥ずかしいとこ全部、新吾に触られちゃってる。あっ」

 やがてぷつ、と何かを突き破ったような感覚。それまでの抵抗が解け、一気に奥まで入り込んでいく。

「あ、ああ。ずにゅーって、奥まで入っちゃった。……これで全部。私の全部、新吾の色に染められちゃった。……ふふ。ふふふ。嬉しい」

 結月は両手を新吾の背中に回してぎゅ、と組む。

「新吾ぉ。大好き」

「俺も」

 お互い、見つめ合う度に嬉しくなって笑顔。キスをしたり頬を擦り合わせたり。

「えへ、えへ、えへへへ」

 幸せ。結月は心底そう思った。勿論新吾も同じ気持ち。

「ねえ新吾」

「うん?」

「えっちな事って、色々あるよね?」

「まあ、そりゃ」

 結月は言う。どこで知ったのか調べたのか。

「いっぱい、してあげるね。お口とか、胸とか使って」

「……うん」

「じゃ、このまま動いて」

 結月の体を完全に隠すようにして覆いかぶさる新吾。ベッドのスプリングがギシギシと鳴っていく。ゆっくりと動き出す。

「は、あ、あぅ、はぅぅ。私の中で新吾のがうごめいてる〜」

「結月の中、すごい締め付けてくるよ」

「ぐちゅぐちゅ音立ててる。恥ずかしいいぃ。んあ、あ、あっ」

「ぬめぬめしてて、暖かくて気持ちいい」

「う、うぅぅ。恥ずかしいけど。もっと動いて……。私の中、熱いよぉ」

「うん」

「あ、あふっ、あぅ、あぅぅっ」

 ゆっくりとしていた動きがやがて早まっていく。汗ばむくらいに互いの温もりが熱いくらいに感じる二人。一分、ニ分、どれくらい続いただろうか。時間すら忘れながら交わる二人。

「んっんっんっんっんっ! 新吾ぉ」

「そろそろ出そう、かも。早くてごめん」

「ん。いいよ。私も、何だか気持ちがいっぱいになってきちゃったし、丁度いいかも」

 絶頂を向かえる直前に、照れ隠しのようにキスをして、そして……。

「んっ!」

「あ……」

 新吾は射精する直前に結月の中から引き抜いた。そうしてやがて、結月のお腹から胸にかけて、熱いものがぶちまけられていった。奇跡的に袴は汚れなかったのは、新吾の配慮だった。





…………





「や、やっぱり……恥ずかしい」

 交換条件を定めた上で、互いの好奇心を満たすことにした。そうして先手は新吾から。ベッドに腰掛ける結月。――両足を大きく開いているという、はしたない格好。

「あ、あんまり見ちゃ、嫌だよ……」

「じっくり見て、触ってもいいって条件でしょ?」

「そ、う……だけど。っく、うぅ」

 つい先程まで、新吾の大きくそそり立った物が奥までねじ込まれていた場所。新吾は結月の淡い毛に覆われた割れ目に触れ、薄い皮を指で左右に開く。なまめかしいピンク色のそこはしっとりと濡れている。つぷ、と新吾の指が侵入し、くすぐるようにかきまぜるようにうごめく。

「あ、あ、あぁ……っ!」

 互いの好奇心に火をつけたのは結月からだった。初体験の後で結月は言った。

『新吾。女の子のここ……。じっくり見てみたい?』

 新吾は無意識の内に頷いていた。結月は更に続けて言った。

『私も……。男の子の、あそこ……。見てみたい』

 見せてくれるのならと、新吾は了承した。順番は公平にジャンケンで決めた。勝ったのは新吾だった。

「柔らかいんだね」

「そ、そうだよ。うぅ。こんな、とこ……自分以外の人に触られるなんて、想像もつかなかったよ……」

「触るどころか、さっきまで俺のが入っていたんだから。あ、段々とろとろのお汁が出てきてる。……これがクリトリスだね」

「し、新吾が指で……いじくるから。あっ」

 ひく、ひく、と結月はふるえる。新吾は思わずしゃぶりつきそうになってしまったが、その寸前で結月の消え入りそうな声が響く。

「も、もういいでしょ。今度は私の番だよ」

「う、うん。ちょっと早くない?」

「早くない〜! 交代っ!」

 ――ベッドの脇で仁王立ちの新吾。下腹部の突き出た部分に結月の視線は釘付けになっている。

「ひゃあぁ。お、大っきいんだ。今更だけど……」

「うん……」

 人差し指でつんとつつく。びくんびくんと鼓動を感じるそれは結月の興奮も高めてしまう。

「掴む、よ」

 少女らしい、細く白い手が男の性器を包み込む。

「わお……。いつも、手でしごいて出すんだ……。これを」

「うん」

「気持ちいいんだ。それって」

「そう、だね」

 結月は更に、空いた方の手で根元に触れていく。二つの大きな膨らみに。

「な……。あ……。や、柔らかくて……でも、ひんやり」

「男の急所だよ」

「わあぁぁ……。不思議。熱くて、びくんびくんしてる。あ、あれ? なんだかぬるぬるしたのが出てきたよ? ティッシュで拭いたはずなのに」

「結月と同じだよ。触られて、ドキドキしてきたから出てきちゃった」

「そ、うなの?」

 結月の手の平を新吾の肉棒から分泌された先走り液が汚していく。

「新吾。私、新吾の……お、お、おち……あ……お口で……思いっきりおしゃぶり、したくなってきちゃった」

「俺だって、結月の、そこ……。しゃぶりつきたくなってた。舌入れて……」

 言葉を交わすまでもなく、目と目が合って次の行為を始める。互いのニーズを満たす選択肢を二人とも知っていた。そうして体を入れ替える。

「シックスナインって言うんだよね。この体位って」

「うん。そう」

 それ、いいねと互いに同意し合う。一石二鳥とでも言わんばかりに。

 ――じゅる、ずず、と卑猥な水音。新吾の肉棒を口内いっぱいにくわえ込み、舌でなめ回す結月。結月の股間に顔を埋め、柔らかな秘肉をしゃぶりつくす新吾。

(ん、ん、んんぅ。んひぃっ! あ、あ……。私、今……男の人の、お口で、してる。その上……あ、あそこを……なめ回されてる……)

 自分がどんどん汚れていくように結月は思った。おばあちゃんにばれようものなら何と叱責されることか。だけどそれ以上に、もっとしてほしいと思った。

「新吾。また、しよ?」

 やがてまた、はしたなく大股を開き、熱く濡れそぼった肉棒を求める。

「どうして欲しいの?」

 あえて結月に言わせる新吾。結月はきりっと表情を引き締めてから言った。久しぶりに見せる凛々しい姿はノリも良く、格好いいと言えるものだった。演劇部の男役モードで色目を使いまくり。女生徒達が黄色い声援を上げそうなくらいに。

「さあ! 君のその……ぎ、ギンギンに勃起した特大のおち○ちんを、私の中へと突入させてくれたまえっ!」

 最後にキラッと何かが輝いたように見えた。雰囲気は格好いい。雰囲気だけは。しかし……。

「結月……。雰囲気が決定的に合ってない」

 新吾の突っ込みはとても冷静で的確だった。途端に凜としたモードからふにゃふにゃの恥じらいモードに切り替わる。無理をしていたのが丸わかり。

「わ、わかってるよぉ! 恥ずかしいから早く入れて! 早くぅ!」

 案の定、恥ずかしさを堪えるための強がりだった。結月は涙目になり慌てふためきながら求める。しかし新吾は意地悪に言った。

「どこに入れればいいの?」

「あっ。う……。〜っ!」

 結月は逃げ出しそうな気持ちを堪えて思い切り叫んだ。

「私の……私のお、おま○こっ! ほら、言ったよ? だから早く! 早く入れてよ! 意地悪しないで〜〜〜っ!」

「うん。じゃあ」

 恥ずかしいことを言えたご褒美に、ずにゅうぅと侵入してくる感触。

「あ、あ……んっ!」

 巫女装束を脱がされていつしか全裸になっていた結月は楽しそうに微笑みながら、新吾の温もりに身を任せるのだった。





…………





 ――部屋の外。

「ゆうべはお楽しみでしたね、と」

「桜乃……。宿屋のご主人じゃないんだから……。う、わぁ。すごい……。底無しね、二人とも」

 目を細くしながら呟く桜乃と、顔を真っ赤にしながら聞き耳をたてている愛理。年頃で、好奇心旺盛なのは新吾達と同じ。息を潜め、気配を消しながらちゃっかりとやじ馬をしている二人。新吾と結月には絶対内緒にしておこうという約束を交わしたのは言うまでもない。

『あんっあんっ! あ、ああんっ! 新吾! 新吾ぉ! 好き! 好き……っ! もっと! もっとしてぇっ!』

『俺も。好きだよ結月。もっと早く動くよ?』

『うんっ!』

 手の平で結月の前髪を撫でる新吾。結月はひたすら甘えた声と表情。互いの温もりも吐息も直に感じている。少し汗ばんだ肌と肌が触れ合い、更に一つになっていく。

『えへへへ〜。ねえ新吾ぉ。またキスしながら……一緒にいこ?』

『うん』

「台詞の語尾にハートマークでも付いていそうよね。常に」

「とってもいちゃいちゃで、妹としては嬉しいことこの上ございません。この間の精力増強メニューもお二人のお役に立てたようで、嬉しさ二倍」

「精力増強メニューって。……っとに、すっごく激しいわよねあの二人。これで本当に初体験なの?」

 ぎしぎしぎしとベッドのスプリングがきしむ音が部屋の外まで聞こえてくる。妹や親友にこっそり覗かれていることなどつゆ知らず。新吾と結月の幸せすぎる時間はまだまだたっぷりと続いていくのだった。














----------後書き----------


 PSP版の追加ヒロインこと結月っちゃん編。

 キャラクターとしては大いに好きなのですがシナリオはあんまり好みではなかったので、個人的にちと不遇な娘でした。あんまりこう、ヒロインと結ばれるにしても、覚悟とかしがらみとかが色々重たく感じ過ぎてしまうが故に。

 その分、アフターストーリーではもうちと気楽に幸せになって欲しいなと思って書きました。

 お次のシリーズ最終回となるのはびぃかっぷなさっちゃんさん編です。どうぞお楽しみに。



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