秘め事 -京子と結衣-
「あ、いたいた。結衣っ」 それは放課後のこと。京子は靴箱の向こうに見知った顔を見つけ、声に出しながら驚喜する。その相手……結衣といえば『今日は用事があるから』ということで、ごらく部の部室へは寄らないと、みんなに前以て言っていたのだった。偶然か必然か、京子も同じようなことをちなつとあかりに言っていたのだった。 示し合わせた結果という程でもないけれど、結衣と京子は密かにかつ、さりげなく待ち合わせをしていたのだった。 「そんなに慌てて走ってこなくてもいいよ」 「そうはいくか!」 少し汗ばむくらいの勢いで駆けてきた京子に、結衣は落ち着き払って言った。結衣が言うところの用事とは、京子自身の存在が思いっきり絡んでいるのだった。 「待ちきれないから走ってきたのさ!」 京子の表情はまさに真剣。が、そこはそれ。結衣の冷静な突っこみが入るのがお約束というもので。半開きのじとーっとした、呆れたような眼差しが痛いこと痛いこと。 「そう思うなら、提出物くらい前もってちゃんと出しとけ」 「……ごもっともです」 だから、担任に捕まることになるんだと、結衣は表情で語っていた。本来結衣は京子と一緒にもっと早く下校するつもりだったのだけど、ホームルーム終了後すぐに京子は担任に呼び出されてしまい、お小言という名の注意を受けていた。何でも、進路指導のアンケートを提出期限が過ぎて尚も出してなかったとかで、普段の不徳の致すところというものだった。 結衣は担任による京子へのお小言を当初は伺っていたのだが、何だか大分長くなりそうなのでとりあえず外で待っているよと視線で伝え、出て行ったのだった。無論、アイコンタクトをとった上で。それから十五分程してから京子はやってきた。必ず通るであろう靴箱の近くにさりげなく佇んでいて正解だった。 「ま、いいじゃん。行こうよ行こうよ」 「うん」 結衣も、何かしらのハプニングが生じるのは京子だから仕方ないと理解しているから、本気で怒ったりなんてしない。つくづく、こいつは本当にトラブルメーカーなやつだなと思い、呆れたりはするけれども、日常に溶け込んだありふれた光景だと思っていて、ごく自然に受け入れる。それはさておき、二人が目指しているのは結衣の部屋。それが、二人にとって誰にも邪魔されない処。 「それにしても結衣さんや。こんな明るいうちから『やりたい』だなんて、まったくお盛んなことですなー」 本当のところはは京子の方から(それもかなり積極的に。京子は、結衣〜。たまにはしようよーとか、甘えた声を出しながら結衣にベタベタと抱き着いたりしていた)誘ってきたのだけども。そんな軽口に対して、結衣は静かにフッと息を吐きながら反撃の一言を繰り出す。……あの時の、自身にとって色んな意味でトラウマになっている光景を思い浮かべながら。 それは今とまるで同じような、二人きりのシチュエーションだった。京子が(酒でも飲んで酔っ払ったように)悪乗りして、禁断の行為に及んだという、ただ一つの違いを除いて。 「いきなり私を強引に押し倒した挙げ句、のしかかってディープキスをしまくった上に、無惨にも処女を奪い去ったお前にだけは、お盛んだなんて言われたくないな」 結衣の諦めきったような、悟ってしまったような淡々とした口調はしかし、京子の心をぐさりと突き刺す。いっそ大声で『このレイプ魔!』と罵られた方が、京子を襲う罪悪感は軽いかもしれない。行為が終わって後、冷静になった京子は顔面蒼白になりながら結衣に謝ったものだ。あの時はごめん、と。それに対して結衣も怒る素振りなど見せず、しれっと言ったのだった。気にしてない、と。お前に奪われるのなら、いい。とも。 (まったく、こいつは……) しかし、結衣は更に続けて言ったものだ。目には目を。歯には歯を。……奪われたら奪い返せ、とばかりに、京子の秘所を奪うという報復措置をとったものだ。……それだけでなく、細長い油性サインペンを突っ込んだりして、奥まで貫いてみたりした。その時のトラウマが蘇り、京子は自らの過ちを謝罪する。 「すみませんでしたっ!」 「わかればいい」 「ハイ……」 …………
肌を重ねる段になったら、京子が攻める一方で結衣はされるがまま。いつも決まってそんな構図になるのだけど、もしかすると結衣に軽々と受け流されているだけなのかもしれないと、京子は時々思う。とはいえ、一度攻勢に転じたが最後、そのまま手を緩めるのは相手のカウンターをくらうとかなんとか、自分に言い聞かせてそのまま主導権を握り続けるのだった。 「ん」 「んん」 単なるキスが、いつしかそのままでは済まなくなっていく。舌と舌を絡ませる程の濃厚なキスに。初めてのときも、そんなふうにしてエスカレートしていった。 結衣は床に敷いた布団に横たえらせられて、京子が覆いかぶさっている。二人は衣服を全て脱ぎ去っていて、全裸。 「お前は本当に、せっかちなやつだな」 「そうかな?」 「そうだ、よ。……あっ!」 京子の舌が結衣の脇腹を這う。 「おいしいものは急いで食べたくなるものだよ。ラムレーズンとか」 冷凍庫にきちんと二つ入っているのを、京子は知っていた。勝手知ったる我が家とばかりに、結衣の部屋の内情を知り尽くしているのだった。 「やらないからな」 「えー。ケチー」 ぶつくさ言いながら、結衣の胸に舌を這わせている京子。その、意外に侮れない膨らみを揉み回しながら、乳首を摘まんでこね回す。ひまっちゃん程ではないけれど、なかなかだよなと京子は常々思っているのだ。 「う……。はぁ、はぁ」 そんな事をしながら、京子は後輩の姿を思い浮かべる。ふわふわの髪を二房にまとめた、一見可愛いけれど思考は結構腹黒だったりすることがあるのがやっぱり可愛い後輩……ちなつのことを。 「こんなとこ。ちなつちゃんが見たら、何て言うかな?」 「よせ。そういうこと、言うのは……。あふ」 きっと激怒する。誰に対して? 京子に対しては当然としても、愛撫を受け入れてしまっている結衣に対してもかもしれない。自分を慕ってくれている後輩には悪いけれど、この関係を崩したくはない。そう思うと、いつの日か、ちなつとの関係が悪化する時が来るのかもしれない。修復不能になるか、理解を得られるか、正直な所結衣はあまり自身がなかった。けれど、だめならだめでしょうがないか、とも思う。諦めにも似た感情だった。 「ちなつちゃんには悪いけど、結衣は渡せないね」 「くぁっ! お、お前こそ。あぅっ!」 京子は結衣が感じるポイントを知り尽くしている。その上で今も、乳首をなめ回している。 「綾乃が、悲しむか。けど……。うくっ!」 「へ? 綾乃が? 何で?」 京子がすっとぼけているのか、あるいは本気で理解していないのか、結衣にはわからなかった。 「あっ! あっ!」 「それにしても、結衣は乳首が弱いなー」 「く、ぅっ。はぅ……。そんな、いじったら……。あっ」 じわじわと込み上げる快感を必死に押し殺したような吐息。結衣は小刻みに震え、絶頂を向かえていく。 「あっあっ!」 「はい、結衣いっちゃった〜」 余裕綽々の京子はしかし、すぐさま手痛い反撃をくらうことになる。結衣の、夢見心地のとろんとした目付きは突如として鋭いものに変わると同時に、結衣は京子の唇を思い切り襲った。 「んんんんんんっ!?」 それはもう、京子が目を見開いてしばらく硬直してしまうくらい、衝撃的なキスだった。 「隙有りだ。お前はいつも、隙だらけだな」 してやったりと、微笑をみせる結衣。ただやられる一方ではないぞとの意志表明。一度ダウンを奪っただけで油断するなと言っている。 「ふぁぁ……。ゆ、い……」 こうして結衣の逆襲が始まる。結衣は、京子がキスに弱いことを知っている。それだけじゃなく、どこが弱いのかも、感じるのかも知り尽くしている。 「ひゃぅっ!」 京子の首筋を舌で愛撫し、攻める結衣。その表情はゲームをしている時のように楽しそう。 「あ……ふ……」 結衣の指が京子の肌を撫でる。口には出さないけれど、愛しそうに、指先で軽く押すように。 「ゆ、結衣。くすぐったい……」 結衣は京子の声をあえて無視して、指を割れ目へと侵入させていく。 「あ、あっ!」 ずにゅ、と滑るようにして結衣の人差し指が根元まで飲み込まれて行く。京子は目を見開いて、全身を震わせる。 「ゆ、結衣! ちょっと……。あっ! んあっ!」 強引だよ、と抗議することもできずに京子は切羽詰まった声をあげる。結衣は既にスイッチを入れたかのように、指の出入りを激しくさせていた。 「あっあっあっ! んあっ! ち、ちょっと。……あああっ!」 お調子者を、このまま一気にイかせてやる。と、そんな意図が結衣の表情からは見て取れる。軽く口元を歪めた笑みは、京子にとっては脅威だった。 「あああっ! うあああっ! あ! あ! あああああっ!」 ずぶ、ずぶ、と出入りを繰り返す指。やがてぬめりを帯びてきて、ずにゅずにゅ、くちゅくちゅ、とあふれ出してくる。同時に京子の震えも媚薬が全身に浸透していったように大きくなっていく。 「ゆ、結衣! もう……! 私……。あっ!」 「イっちゃえよ。そのまま」 京子の反応が可愛くてたまらない。おもちゃを弄ぶように、結衣の指は激しく出入りを繰り返す。人差し指に加えて中指も深く京子の割れ目に突き刺さる。 「んあっ! んああっ! ああっ! あああああっ! あ……っ! んっ!」 結衣の宣告通り、京子は絶頂を向かえさせられた。 「ほらイった。イっただろ? 今」 いつもポーカーフェイスの結衣にしては珍しい、満面の笑みだった。まさに、してやったりとばかりの。 「はあ、はあ……。ゆ、結衣のドS……」 京子はいつものテンションが嘘のように、脱力してしまった。 「そうだ。私はドSだ。だから、お前を好き放題いじってやろう」 結衣の手が再び伸びていく。京子を更なる絶頂に追い込む為に。 「あ! あ! ああーーーーーっ!」 …………
「結衣〜。ラムレーズン」 どうせくれない。だめだろうな、と最初から思いつつ、京子は言った。しかし……。 「ほら」 「ははーっ!」 差し出されたのはラムレーズンのカップアイス。けれどそれは既に蓋が開けられていて。 「え? あ、あむっ」 結衣に突然スプーンを口元に突きつけられて、京子は条件反射のように口を開けてしまった。 「うまいか?」 「ん……。んむんむんむ。うまい」 京子は口元をもごもごとさせる。冷たさと甘さが広がり、心地良さに包まれる。 「そうか」 京子の口からスプーンが引き抜かれていく。とろりとした糸を引くのが何故だか卑猥に感じる。 「あ、あの。結衣?」 「ほら、あーんしろ」 「あああ、あーん!?」 更に差し出されていくスプーンに、京子はただ、されるがまま。慌てふためく京子を見て、結衣は珍しく満面の笑みを見せるのだった。 ----------後書き----------
唐突に、何の前触れもなく初のゆるゆりもの。えっちなシーンはちょっと大人しめだったやも。 京子×結衣というのは、何と言うかスタンダードな組み合わせだなーと思うのでありました。
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