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土砂降り









 それから。

 二人は全身ずぶ濡れの状態で、車に戻った。

 大いに混乱しつつ、バスタオルで全身をよく拭いてから、出発。

 さすがに、乱れすぎたという自覚があったのか、円香は終始無言だった。恥ずかしくてたまらないのだろう。

 何度と無く通行止めの憂き目にあいながらも、迂回を繰り返してどうにか山を降り、やっとのことで人里にたどり着いた。二人とも、疲労困憊だった。

 もっとも。後でわかったことだけど。別の車で帰ったスタッフさん達も、この二人と同じように、帰るのにだいぶ時間を食ったそうで、決してプロデューサーの手際が悪かったわけではなかった。

『ああもう。遅くなってしまった。……いっそ、どこかに泊まっていくか? 俺も円香も、明日はオフだし。なんて』

 プロデューサーの呼びかけに、ひたすらスマホをいじっていた円香は、ぴくんと反応した。

 明日はオフ。明日はオフ。明日はオフ……。

 円香の意識に、そのフレーズが強く残った。

 プロデューサーは、言ってから、しまったと思った。

 後ろには、色んな意味で怖い人が座っているのだから。

『はあ? 信じられない。担当アイドルとどこかに一泊? スキャンダル発覚のリスクとか、まるで考えていないのですね。あなたの辞書に、常識という文字は無いのですか? いい加減にして』

 舌打ちと共に、じろりと刺すように冷たい視線。それから、みっちりとお説教。

『ご、ごめん。冗談にしても、タチが悪かった』

 けれど……。

『泊まらないとは、言ってないじゃないですか』

『え?』

 円香の返答に、きょとんとするプロデューサー。鳩が豆鉄砲を食ったような表情とは、まさにこのことだろうか。

『早く、あなたも宿を探してください。……朝帰りをするくらいなら、どこかに泊まった方がまだマシです。すぐにでも、お風呂に入りたい気分ですし、服も洗いたいです。非常に不本意ではありますが、こうなったら致し方ありません。……そう。緊急事態なので、宿泊もやむなしです』

 円香はうんうんと、頷いていた。

 それだ。

 円香は内心、ラッキーだと思っていたのだった。そうだ。どこかに泊まるという手があったのだ。二人だけで。

 この時間からの宿探しだ。街中とはいえ、苦労するかもしれないが、それでもいい。草の根かき分けてでも、それなりのホテルを探してみせると、円香は猛烈な勢いで、スマホの画面をタップし始めた。

 ……結局、プロデューサーと円香はスマホやらカーナビやらをいじって、適当な距離の所に、良さげなビジネスホテルを見つけて、入ることにしたのだった。

 辿りついた先。ホテルのフロントにて、プロデューサーが宿泊用の書類を書いている時。円香は澄ました顔をして、プロデューサーの左腕を組んでいた。ばれないようにと用意していたロングタイプのウィッグをつけ、伊達メガネをかけて、ベレー帽をかぶって。

 とても親密な仲の男女。スーツ姿のビジネスマンと、その恋人なのか、あるいは新婚ほやほやの若妻かといった関係にしか、見えなかった。

『これはあくまでも、誰からも怪しまれないようにするための、やむを得ない措置です。勘違いされては困ります』

 とか言いながら、プロデューサーが書類に『二部屋分』のチェックボックスにレ点を入れて、予約をしようとした際。円香はプロデューサーの左手の甲を、ぎゅっと強くつねったものだ。

 そこ、間違っていますよとの、意思表明。

『一部屋で充分です。ボディガードが別室にいて、どうするのです?』

 とのこと。別の部屋だなんて、有り得ない。とんでもない。プロデューサーは何もわかっていない。この鈍感。唐変木。

 そして……。

「ふう」

 ちゃぷんと音をたて、湯船の中。たっぷりとした、暖かなお湯に浸かる円香は、満足げな表情。

 室内風呂だけど、思ったよりも広くて設備も新しくて清潔で、快適だった。悪くない。

「ん……。やっと、汗を流せました」

「そ、そうか」

 湯船の中。円香の下には、プロデューサーがいた。

「何か、問題でもありますか?」

 今の状況について、疑問を抱いていそうなプロデューサーを、円香はジト目で睨みつける。

「何も問題ありません」

 勿論円香の中に、それはしっかりと、入っていた。

 プロデューサーの、未だ衰えないものが、しっかりと。

「あなたは、据え膳食わぬはなんとやらな考えでしょう? そんな事で、他のアイドル達に、要らぬ迷惑をかけてはいけませんからね。なので、私がたっぷりとお相手します」

 なんだそれはと突っこみを受けそうな程、名目はいい加減なもの。

 ――それから。風呂の中で、上手くいかなかったフェラチオのリベンジタイム。白濁ミルクを絞り出すまで、円香は舌と口を駆使してじゅぽじゅぽ咥え、頑張った。

 無事、プロデューサーを射精させることに成功したのだけども……。

『……よりによって、なんで顔にかけるんですか? 出すところはいっぱいあるでしょう』

 彼女はちょっと、お怒りになった。

『まあいいですけど』

 すぐに許してはくれたけど。

 それから、舌を絡ませ合い、長時間の、貪るような濃厚キスをした。舌がつってしまいそうなくらい、円香は頑張った。

(キスは、いいものですね)

 円香はしみじみと、そう思った。いつまでも余韻に浸っていたかった。

 続いて、室内に戻り、広いベッドの上。プロデューサーをお馬さん代わりにして、荒馬騎乗位セックス。ロデオマシンに乗っているかのように、円香はびょんびょんと跳ねて、頑張った。

 馬乗位に疲れたら、ゆったりとベッドに寝そべればいい。

 円香は大きく股を開いて、奥までずっぽりと入れてもらった。それに加え、プロデューサーが離れないようにと両足を組んで、がっちりロック。俗に言う、だいしゅきホールド……。

 でも、ひとたび動き始めたら、円香はまた、喘ぎまくった。

 正常位は、ごりごりと密着する感覚が、たまらない。

「あ、あ、あ、あ! 変態! ミスター絶倫男! 今日一日で、何回出してるんですか?」

 それはまさに、円香自身にも当てはまること。

 プロデューサーの性欲が落ちつくまで。満足するまで、搾り取る。あくまでも、そういう名目で、円香は受け入れていた。

「はぁぁ……! 本当に。はぅっ! ダメな人。んんっ」

 たっぷりと中に出してもらったら、体をひっくり返して、おねだり。

「まだ、ですよ?」

 円香は、ベッドの上で四つん這いになって、射精されたばかりの秘所を片手で開いて、プロデューサーに差し出すように見せつけていた。

「まだ、できますよね? ……あ、ん!」

 がっちりと、腰を掴まれる。続いてずにゅにゅにゅと、挿入。さしたる抵抗もなく押し込まれていく感覚は、円香への回答。

「あっあっあっんっ! この色魔! ミスターすけこまし! イかせ、魔! あ、あぁんっ! もっと! もっとぉ! いっぱい突いてぇ!」

 ギシギシと、僅かにきしむベッド。

 ぱんぱんぱんぱんとテンポよく響く、男女の性交を物語る、乾いた音。

「あぁぁ……ぁ、ぁ……。い、いぃ。い、く……。深いぃぃ」

 とろんとした、夢見心地の眼差し。

 発情した、雌の顔。

 快楽に支配され、猫のようなか細い声を漏らしながら、円香は新たな絶頂を迎える。

「い、く……あ、あっ! あっ!」

 ホテルの外は、未だ土砂降りの大雨。

 それらは、全ての事象を覆い隠すかのように、尚も降り続けたのだった。









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