土砂降り
7 滝のような雨。程々の風。 モノクローム。あるいは水墨画といったところ。夜の深い闇に包まれた、黒と、僅かな白色だけで織りなされる世界。 「あっ! あっ!」 人里離れた山の中で。一組の男女が、全裸で性行を続けていた。立ちバックという野性的なスタイルで、激しくぶつかり合う。 『あなたのせいで、どうしようもない程に、体が火照ってしまいました』 円香は、どうにかして文句を付けようとした。けれど、こういうときに限って、いい言葉が浮かばない。 三回も連続で、絶頂を迎えさせられた。その余韻が、今も残っているのだから。高揚した気分は、簡単には落ち着かない。 『責任をとってください』 散々楽しんでおいて、この女は一体何を言っているのだろう? 円香はつくづく、自分の勝手さに呆れた。 けれど、プロデューサーは、マイペースだった。 『すごい雨だな』 そして彼は、有り得ないことを言ったものだ。 『円香は、まだまだし足りないんだろ? 火照りを冷ましたいのならさ』 そして、車の外を指さした。 『いっそ、天然のシャワーでも浴びながら、しようか。バスタオルなら、何枚も持ってきてるしな』 『……』 青姦。野外セックス。思い浮かぶのは、アダルトな分野の単語。一般のアイドルとは隔絶した世界。 は? 何を考えているんですか。本気で有り得ない。頭わいてるんじゃないですか。 ……普段ならそう言ってプロデューサーを睨み付けるような、非常識極まる提案。けれど、非難する余裕も、暇すらなかった。 思い立ったら吉日とばかりに、円香はプロデューサーによって、半ば無理矢理サンダルを履かされて、外へと誘われた。 そして……円香は一切抵抗することなく、自ら進んで、車から外へと出て行ったのだった。 『うっ!』 『すごいな』 二人で、目の前すら見えないような、豪雨を全身で浴びる。 空気も雨も、決して冷たくはなくて、まるでぬるま湯にでも浸かっているかのよう。 『外……』 円香は思う。こんな行為。誰かに見られたとしたら、アイドルとしての自分は確実に終わることだろう。その可能性は限りなく低いけれど、倫理に反した大変危険な行為をしているのだと、痛い程実感する。背徳感に、背筋がぞくりと震えた。 『それじゃ、早速するぞ』 『あっ!』 いきなり最高潮。 プロデューサーは、雨に打たれて戸惑う円香の体を羽交い締めするようにした。そうして後ろから、身長差を解消する為に腰を屈め、手で押さえながら微調整し、挿入していった。 先端が入り口付近に当たっているのが、円香にもわかる。 『遠慮なく声を出していいぞ』 何を言ってるんだと、円香はそう思った。それも最初だけだった……。 土砂降りの雨は、音も、視界も、全てをかき消してくれる。羞恥の余り、手で口を押さえて誤魔化す必要などなかった。 ずにゅりと、埋没していく。 痛みはまるでない。雨のせいもあるけれど、前戯をたっぷりと楽しんだから、円香の恥部は充分過ぎるほどにほぐれていた。潤滑油代わりのローションすら塗る必要がなく、円香の割れ目はプロデューサーのものを、難なく受け入れていった。 ――そして、今に至る。 「あっ!」 円香の中。狭い膣の内側に、プロデューサーの太い性器が擦れ合う度に、円香は切羽詰まったように喘いだ。 「あひっ! そんな、激しすぎ……あっ! くっ! 深、い! あぅっ! あっ!」 円香の子宮にまで、楽々到達するような長さ。そんなもので容赦なく、小突かれている。 「あっあっあっ。こんな……。外でなんて、最低。あなたは、盛りのついた野良猫ですか? あっ!」 正論ではある。説得力は皆無。 何を今更なことだ。嫌ならば、拒否をすればよかった。けれど、円香はしなかった。彼と、同類だ。 「好きな人としてるんだ。盛って何が悪いんだ?」 「あぅっ!」 一際ずぶりと大きく突かれて、円香は目を見開いた。文句ばかりでうるさいぞと、言われているかのよう。 「円香は、気持ち良くないのか?」 「んっ! 気持ち、いいですよ。残念なことに。すごく。あっ! またっ! はぅっ! んひっ!」 「だったら、声を出して欲しいな。恥じらいなんて、捨てて」 「く……!」 そんなことができるか。 いつものように突っかかりたいのに、断続的に襲いかかる快感に、円香は嬌声を出していた。 「あ、うっ! ……ちょっと、優しく。あっ!」 その望みは、聞き入れられない。プロデューサーは容赦なく、下腹部を円香の尻めがけて叩きつけている。いつもと違い、犯すかのように荒々しく。 「あ……。だ、め。立って、られな……」 足に力が入らない。倒れそう。円香がそう思っていると……。 「プロデューサー?」 円香は両腕を引っ張られるようにして、上体を固定されていた。 「あ、あ、あ、あ、あ! もう! 調子に乗って! んぁぁっ!」 ばちゅんばちゅんと、交わる音がしているはずだけど、雨音で聞こえない。 円香の小振りな尻が、交わり合う激しい衝撃で震えるようにたゆんでいる。少し離れた所から見たとしたら、プロデューサーのものが、円香の中へと激しく出入りをしているのがわかることだろう。 「ひああっ!?」 プロデューサーは突然、掴んでいた円香の腕を離して……。 「あ、あ、あ!」 代わりに円香の胸をもぎゅもぎゅと、強めに揉み、乳首を両方同時に捻りあげた。 先程絶頂を迎えさせられて、敏感になっていたところを再び攻められた。円香は一瞬、意識が飛びかけた。 「はぐっ!」 更に、下の方にも深い突きを咥える。ずんっ、と、奥に当たる感覚が連続で、繰り返される。 「あっ! ひっ! ひっ! あ、当たってる。奥に……くぅぅっ! 奥まで! くひっ! あっ!」 普段のクールな、落ち着き払った顔が嘘のよう。円香は今にも泣き出してしまいそうな、情けない表情をしていた。 「あっ! だめっ! あひっ! 深い! これ、だめ!」 深くて、熱くて、そして……切ない。 円香は、素直な気持ちを、口走っていた。 「気持ち……いぃ。あ……あっ!」 「円香。今、気持ちいいって言った?」 「い、言ってません! 勘違いです! 空耳です! あっ! んっ! 気持ちいいわけが! あんっ! はぁんっ! あっ! ありま、せん!」 誤魔化しなど、無駄だ。円香の体は、明らかに悦んでいた。体は正直だという事実に、円香は恥じらった。 円香は罰を受けることになる。 「え……? な、何で、止めるんですか? ここで」 突然の中断。テンポよく動いていたのに、突然止まった。 「円香が、気持ちいいって言ってくれないから」 「っ!」 意地悪な男だ。……もしかすると、彼は拗ねているのかもしれない。 「……き、もち、いい、です。認め、ます。これで、いいですか?」 「それならいいよ」 嬉しそうな声と共に、ご褒美の挿入再開。 「円香。こんな所だ。どんなに淫らな声を出しても、エロい顔をしても、誰にも知られることはないんだ」 タンタンタンと、ダンスのレッスンをするかのように、リズムカルに突き込むプロデューサー。 「ひゃふっ! ひぁっ! あひっ!」 「だから、さ。俺に立ちバックで奥までずんずん突っつかれて、素直にあんあん感じまくってる姿を、見せてくれないか? 俺だけに」 今だけは、素直になってくれ。 普段ならば、願い下げ一択の提案。今は、その限りではない。ただし、一つ条件がある。 「そうすれば。途中で動きを止めたり、しないですか?」 「ああ。約束する」 「仕方が、ないですね」 ああ、もう一つ条件があった。とても大切な事だ。 「誰にも、言わないでくださいね?」 「当たり前だ。言うわけないだろ、俺とお前の秘め事なんて」 こんなの、私じゃない。本性をさらけ出した姿なんて、何かが壊れてしまったかのよう。 「信じますからね」 全裸。野外。夜。暗闇。豪雨。雑草が生い茂る、誰からも忘れ去られたような、荒れ果てた駐車場。そして、青姦。 まるで、野生の獣になった気分。 円香は最愛の人に、発情した雌の顔を見せることに決めた。 「あっ! あっ! あっ! 気持ちいい!」 ステージ上での全力ボイスのように、思いきり声を張り上げた。 「奥、いい! ごつごつされて! すごい!」 だらしなく大口を開けて、唾を飛ばし、犬のように舌を出して、喘ぐ。 「あんっ! おっぱいもいいぃ! 乳首ぎゅってされるの、たまらない! もっと強くつねって!」 吹っ切れたように。狂ったように。円香は叫んだ。 「円香、好きだぞ」 「!」 ぎゅっと、締め付けが強くなるのが、プロデューサーにはわかった。好きと言われて、円香は嬉しかった。その気持ちが、プロデューサーのものを、きつく締め上げた。 「私も……です」 言葉が、円香の心を揺さぶった。 「ごめんなさい!」 なぜか、懺悔の言葉も出てくる。 「いつも……悪態ばかりついて、ごめんなさい! 生意気で、ごめんなさい!」 素直になれない子供な自分が情けなくて、円香は泣いていた。 それでも、どんなに涙を流しても、豪雨は全て覆い尽くしていく。なかったことに、してくれる。 「プロデューサー……! 好きです! 愛してます!」 有り得ない。彼女は、絶対にそんな事を口にする人ではないと、他人は誰もが言うことだろう。 馬鹿じゃないのと、もしも自分がもう一人いたら、憤怒と憎悪の眼差しで、罵倒することだろう。ふざけたことを口走っているんじゃない、と。 けれど、今だけは別。奇跡的に、様々な条件が整ったのだから。 「好きぃ」 普段なら、口が裂けても言わないような、甘ったるい言葉。今なら何でも言える。……まず間違いなく、後になって冷静な気持ちで思い返したら、恥ずかしすぎて悶絶することだろう。 プロデューサーに八つ当たりもしてしまうに決まっている。 けれど、今はいい。 依存症のように、後先考えずに、快楽に溺れたい。 「俺もだ。円香、可愛い。素直な円香も。意地っ張りな円香も。照れ屋な円香も。全部可愛い。愛してるぞ」 「あああああああっ! 好き! 好きい! 気持ちいいぃっ! もっともっと! もっと突いて! もっと激しくして! 私のおま○こ、かき混ぜてぇっ!」 交わりが早くなるに連れて、円香の小ぶりな胸の膨らみが、ぷるぷるとせわしなく揺れていく。 「プロデューサー……。あ、ああっ! あああああっ! ま、また、いき……ます! はぅっ! すごい! 壊れちゃう!」 「う……。そろそろ出そう」 「!」 円香はまた、叫んだ。 「中に! 中に出してください!」 もはやアイドルだなんて、上品なものじゃない。盛りのついた、雌犬だと円香は思った。 「そのまま私の中に! 奥にっ! あなたの精子をいっぱい注ぎ込んでください! くぅぅっ! いくぅっ!」 円香はつま先立ちになりながら、強い快感に酔いしれていた。 少女の華奢な体を、まるでハンマーで痛めつけるように、ばんばんばんと、プロデューサーは攻め続けた。 「あっあっあっあっ! あんっ! 好き! 好きぃ! お○んこ気持ちいいよおぉっ! いくっ! いくぅ! いっちゃうぅぅぅ! おちん○んすごいぃぃぃっ! 気持ちいいいぃぃっ!」 ……あなたは、アイドルで上手く行かなくなったら、AVデビューでもする気ですか? と、円香は思った。 どんなに有り得ない声を出しても、全てがかき消された。だから、思うがままに叫ぶ。こんな事は、もう二度とないかもしれない。 「いっちゃううぅぅぅぅ! あ、あ、ああああああっ! あんんんんっ!」 一足先に円香は絶頂を迎え、少し遅れてプロデューサーは、円香の子宮に白濁した液体を流し込んでいった。 「ああぁ……。はぁぁ……。で、出てるぅ……。私の中に……いっぱい。プロデューサーの……」 どぷり、どぷり、ごぽ、ごぽと、消火用の放水ホースが大きく波打つかのように、円香には感じられた。 体内に、大量の精子を注入されていく、生命の温もり。円香は恍惚の表情。 「あ、あ、あぁぁ……。はぁぁ……。はふぅ……。気持ち、よかった、です」 円香は嬉しそうに笑い、幸せな気持ちを噛みしめた。 「プロデューサー。……ありがとうございます」 微笑ではない。満面の、子供のような笑顔で。 |